nikki_20221213「マーガレッド・アトウッド『侍女の物語』」

 

 

(版元ドットコムにあったがこれしかなかったので書影は『侍女の物語 グラフィックノベル版』を引用させてもらっただが、読んだのはハヤカワepi文庫版)

 

読んだ。女性が出産のための道具のように扱われるようになったディストピアの話であり、フェミニズムの話なのだと思う。しかし最後のほうで主人公は男性に恋情を抱くような描写があり、そのようなヘテロセクシュアルに落ち着いていく結末はどう捉えたらよいか分からなかった。しかしそれはあくまで物語の一部であり、長いページ数をかけて描かれる社会のシステムだったり、生活の描写は想像力の賜物という感じでよかった。食事のバターをくすねてハンドクリームの代わりに使ったり、見せしめのために袋を被されて吊るされる死体、儀式の手順などなど。まったく想像ができないというわけではなく、絶妙にありそうなディティールが積み重ねられていると思う。これが1986年に描かれたのはすごい。

 

全体的に長く、半分くらい読んで徐々にどのような世界なのかが見えてくるのに退屈を覚えかけたといえばそうかもしれない。最後に「実は録音された語りでした」というオチがつくのだけど、この補足部分を私は「ガチの補足」だと思っていたのでサプライズではあった。ただ、その驚きでここまでの長さを回収しきれたかというと納得はできないし、書いている方もそこまで驚かせようとしてやったことではないと思う。とにかく何かが大きく変わるわけでもない、社会のありようを描き続けることで何かを訴えようとしている作品というか。随所にあるこれが「物語」であることを意識した語りもよくて、470ページ当たりの「じっさいには、ことはこのようには進まなかった」というひっかけみたいなのもよかったです。

 

p485 この物語がもっと違った物語であればいいのに。もっと洗練された物語だといいのに。たとえ幸福ではなくても、せめて私の良い面をもっと強調してくれる物語ならいいのに。そしてもっと逡巡の少ない、あまりささいなことで脱線したりしない、もっと活動的な物語ならいいのに。もっときちんとした形式を持った物語ならいいのに。愛についての物語、あるいは人が人生にとって重要な悟りを得る物語ならいいのに。せめて夕焼け、鳥、嵐、雪についての物語ならいいのに。