nikki_20220616「リズと青い鳥を再視聴しました」


 この日はひとりで長距離あるいた翌日独特の全身倦怠感とともに過ごした。再視聴した「リズと青い鳥」の感想で日記とします。内容にも触れます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 いきなり別作品の話をするが、旧豊郷小学校に行ったりしたことから最近はけいおん!のこともよく考えている。ちょっと個人的に図書館でキネマ旬報を漁り、劇場版公開当初に行われた山田尚子監督へのインタビューを読んだりした。とてもよかったので印刷して保管している。そのなかでもとくに印象的だったのが以下のひとことだった。

 

 できることなら、ずっとカメラをすえっぱなしにして、いつまでも彼女たちを見ていたい、彼女たちを包んでいる空気までもとらえたいんです。そのためには、こちらから画面のなかにグイグイ入り込むよりも、少し距離をおいたほうが伝わると思うんです。(キネマ旬報社キネマ旬報」,2011年12月上旬号,p80)

 

 山田監督の憧れる「少女性」についてインタビューではわりと触れられている。少女たちを遠くからただ見つめ、その空気までとらえる。その美学に則った身悶えするほどの美しさに唸るしかない作品でした。ここが9割くらいで、あとは蛇足といってもいい。最後のほうとか全カット額縁に入れて飾りたいレベルです。設定集みたいなのがあるらしいので買おうかなと思う。

 

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 私はかつてこの作品に「モノローグが一切ない」ということを思い出して日記に書いたりしたのだけど、その重みもまた違って感じられた。コンセプトとして見ている人は壁やビーカーになるという話もあったように、決して彼女たちの内面には切り込まれない。モノローグもなければナレーションもない。それは舞台が学校のなかで閉鎖されていて、説明が必要ない部分も多そうではある。しかしそれだけではない。少女たちに「入り込む」ことをせず、距離を置くことが徹底されているからなんだろう。カメラはひたすら彼女たちを映し、ときどき視点と一体化する。それと発される言葉だけが彼女たちの感情を推し量る手がかりであり、はっきりと提示はされない。繰り返すようだけどその美学がひたすら貫かれていて、それに感動することが私にとってはすべてだったと思う。

 

 

 

 

 ここまでの表現面で9割くらいだったので、あとは内容について語るのだけどほぼ蛇足のような感想になる。

 

 公開当時に購入していたリズ青のパンフレットを読み返したりもした。パンフレットを買っておく癖があった当時の自分には感謝しつつ、いちど読んだにも関わらず(読んだのもかなり前なので)ずっと唸っていた。ここあたりの脚本の吉田氏と監督の山田氏のやりとりなんかは刺さるものがありました。

 

吉田:(前略)『けいおん!』から続いて一緒に仕事をさせていただいていますが、かけがえのない一瞬を切り取ろうとしているというか、今この時にしかない瞬間を描きたい⋯.という山田監督の在り方が端的に現れるの ではないかと。生きている限りは何かが続いていく⋯⋯。だから、その瞬間も、思いも、関わりもそこにしかない。そういった部分を山田さんは大事にされているように思います。

 

山田:そこは吉田さんとご一緒している中で見つかってきていることだと思います。以前吉田さんが話されていたお話がすごく印象に残っていて⋯⋯。

 

吉田:ある劇作家の方が書かれた、『人間失格』を題材にしたお芝居があるんです。その中で「自分たちの仕事は灰の中から小さな宝石を見つけ出すことだ」という一節があって、そういうことが私のやりたいことだとずっと思っています。生きていくことが大変で困難なことは多くの方が感じている部分であり、その中から希望や美しいもの取り出しているんです。『リズ』の場合は、ある時期の繊細で壊れそうな心を取り出しています。羽がたくさんある中で一つの羽根を拾うような映画になっていて、それが山田さんが描き続けてきたことではないかと感じています。羽全体を描くのではなく、羽の中の抜いたうちの一つを繊細に描くのが監督としての山田さんだと感じてるんですけど。

 

山田:日々がよいことだけではないのは抗えないことですけど、わるいことばかりでもないんだよ、ということに気付かせてくれるような映画にいつも救われてきたように思います。悩み多いこころの添え木になるような、深みのある感触をさがしつづけております。 

 

 パンフでも触れられていたが、映画内で完全な結末を迎えることはない*1。最初にみたときはここにかなり面食らってしまった思い出がある。大会の演奏まで描くものだと信じて最後まで見ていたのに、なんでもない日常のシーンでぷつんと途切れて終わってしまう。「途中から途中までの物語」とパンフにあったのはその通りである。*2

 

 話は逸れたが、"disjoint"が完全な"joint"になったわけではないと私は思う。この先いっしょにいるための約束を結んだようなものに過ぎず、本当に訪れるであろう別れに1mmくらい足を踏み入れただけのような、そんな変化だと感じた。童話において青い鳥は、リズから離れることで彼女の幸せにもなれる。だから言われるままに飛び立った。みぞれが青い鳥なら、まだ希美から「飛び立った」とは言えないし、その動機もしっかりとはしていない。そして、みぞれも、希美なしではここまで来れなかったと告白したようにリズのような役割がある。ゆえに明確な解釈はできなくて、絶妙な煮え切らなさが残る。ほかの人の感想とか読んでみたいです。

 

 あとはフルートパートの会話とか見たのが5年くらい前でも明確に覚えていたり、久美子たち低音パートの会話がふたりに影響を与えていく感じとか好きでした。音楽室でみぞれ、希美、夏紀、優子が話しているシーンもとてもよかった。シャーペンを持つ手に力が入ったり、上履きが擦れる音の描写すき。吉川優子さんの優しさゆえの心配、完全にくだけきらない絶妙な緊張感があってよかったな。

 

 とはいえ前述したように私にとっては表現面で9割ほど圧倒されたため、かなりよかったです。うーん…。しばらくはずっと劇伴を聴いたりして考えて過ごすことになると思います。おやすみなさい。

 

 

*1:小説の方では最後まで描かれるような話もあったので読んでみたい

*2:いちおう関西大会の演奏は誓いのフィナーレで演奏される。ちなみにそこの演奏でかなり泣いてしまった。