ネタバレはします。
panpanya『模型の町』
ちまちま読んできたpanpanya作品も、把握できる限り全て読んでしまったことになる。Twitterで最近話題になっているスマ見『散歩する女の子』という作品がある。panpanya氏の作品に似た妙味があると呟いたのだけど、この本にはブロック塀の穴の種類の話などが出てきたのでまさに!となった。調べてみるとブロック塀に言及した回はなかったが、異様にバズっていたこれなんかはマンホール?の文字表記についての話だったりする。
究極の器を求めて散歩する話(1/2) pic.twitter.com/d1Xj2tn9nj
— 散歩する女の子【1/6単行本発売】 (@nihotosanpo) February 13, 2022
この本も「町」とタイトルにあるからか、いままで以上に町とそこにあるものの歴史という関係が描かれていたように思う。氏の関心がそこにだんだん移っているのだろうか……。表題作をめぐる一連の作品も、なくなると前に何が建っていたか分からなくなる感覚って自分だけじゃないんだなあと少しうれしかったし、「解消」では珍しく卒業式という場面が描かれてからの不思議な終わり方から「足摺り水族館」あたりの雰囲気を感じたりした。ともあれ自分も散歩とか歩くことが好きなので、そういう意味で読み応えのある本だった。あと「登校の達人」等、級友ちゃん?が重点的に描かれることが多かった気がする。かわいい。
熊倉献『ブランクスペース』
全3巻の漫画。まず透明な存在を漫画で表現するうえでの工夫が多数あって面白かった。絵も簡潔な感じがかわいい。終盤は夢世界と現実世界の混濁に持っていっており、直近で読んだつくみず『シメジシミュレーション』を彷彿とさせた。あまりアニメも漫画も見てこなかったから分からないけど、夢と現実の混濁はたぶん珍しいテーマではない。『パプリカ』もそうだったし…。最初は2人だけの話だと思えばだんだんと関係ない人も巻き込み始め、最後はいままで出てきた夢や空想世界の人々が出てきて滅茶苦茶な解決に持っていく感じはどこかラーメンズのコントっぽさもある。
かつて読んだことのあった歌人・中澤系の短歌が出てくると耳にしていたのだけど、それ以上にたくさんの文学が引用されていた。造詣が深いのだな……と思う。冒頭からちょくちょく引用されて物語に絡んでいくのだけど、結局は最後に提示されるフィクションというテーマと結びついている。特に最終話は次々と引用される文章がそのまま物語の中心になっており、好みだったかもしれない。
冒頭から学校に対するマイナスな描写が続いており、出てくる人も集団に馴染めないような人が多い。作者はそういう側に寄り添うものとしてのフィクションを描きたかったのだろうか。いじめ描写は苦手な節があり、どうなるのかなと気がかりだったけど結局のところ現実側の問題は解決せずに終わる。あくまで解決するのは空想側の問題だけだった。フィクションは現実そのものに介入してまっさらに解決するわけではないけど、現実を生き抜く支えにはなるという作者なりの考えが反映されているのだと思った。(とはいえ作中では空想から生まれた犬が鳥を殺したりはする)
1巻のとっかかりを思い返すと、最後にフィクションの在り方を問う境地まで来るとは思わなかったので、意外性がある。先述した作者らしい終わり方であること、短歌の引用も含めて、最後の1話が好みだったかもしれない。後日譚も好きだし、文学が物語に合わせて引用されるの大好き人間なので……。
蛇足としてこの本は書店で購入したのだけど、はじめて訪れた書店ということもあって探すのにかなり苦戦した記憶がある。そもそも男性向けの漫画なのか女性向けの漫画なのか分からず、本棚の周りをぐるぐるしていた。結局この本がなんの棚にあったのか忘れたけど、「このマンガがすごい!2022」ではオンナ編第6位だったらしい。いちおうジャンルは少年、青年マンガということで、そういう区分の仕方もどうなのかなあ、と思ったりしていたのだった。じゃあどう分けたらいいのかと言われても代替案は思いつかないのだけど。