nikki_20230902「性癖2」

 

isitsutbustu-todoke.hatenablog.com

 

前に性癖について書いたことがある。TSFというジャンルが好きであり「自分が性転換し、誰にも見られずにひとりで享楽に浸る」というシチュエーションが好みであるということ、他者との行為に持ち込んだり、他者に迷惑をかけたり、変身によって元の自我が消失するようなのは嫌ということだった。

 

この点で個人的に完璧といえる作品は少ないし、そもそもTSFの作品がそこまで多くはない。ゆえに上で述べた条件にそぐわなくても読むし、むしろそれによって自分の許容範囲が広がっている感覚がある。逆に条件にあっていても、絵柄などが合わないということもある。そんななかで作:狩野景、挿絵:天鬼とうり「目覚めると従姉妹を護る美少女剣士になっていた」(以下、「目覚めると」とする)という作品について述べたい。これから述べる作品やリンクはすべてR18です。

 

www.ktcom.jp

 

これはキルタイムコミュニケーションという出版社から刊行された作品であり、いわゆるエロラノベジュブナイルポルノと呼ばれているものになる。私にとってこの作品は完璧ではないものの、性的に好きでかなりお世話になっており、ずっとこれだけ読んでいたのだけど、思い立って似た系統のほかの作品を読んでみたところ、比較して特徴的な部分があると思ったので書く。

 

あらすじとしては「退魔師の分家筋に生まれた一条遼は、ある夜目覚めると身体が女になっていた!! さらに時を同じくして従妹の結女が、鬼への生け贄「鬼慰姫」として狙われ始める。遼は結女を守る「鬼斬姫」の役割を果たすため、身体が女体化したらしく!?」とある通り、主人公が女体化する話である。従姉妹が鬼に狙われるようになり、それを護る存在(鬼斬姫)として主人公が女体化する。従姉妹が鬼に狙われている間は女性のまま、という設定である。

 

まずこの作品のジャンルは曲がりなりにも小説であり、そして性転換ものということになる。この時点で似た作品は絞られる。もちろん性転換ものの小説はそれなりにあるのだけど、エロ目的のものとなると少ない。そして調べてみると分かるのだけれど、だいたいは他者との行為に持ち込まれたり、最終的に妊娠や快楽堕ちに繋がる(ようなタイトルや表紙である)。

 

この作品も例外ではない。妊娠はないが、快楽堕ちの手前に来るような描写はある。そして陵辱的な描写が多い。私が好みとする自慰行為の描写も、全5巻のうち1巻の冒頭数ページで終わってしまう。しかし、完全に堕ちきることはない。それはこれがあくまでバトルものとしての体裁を守っているからである。タイトル通り恋仲にある従姉妹を護るということが最終的な目標として設定されているので、バッドエンドにはならない。

 

これが文章の体裁をとって描かれていることも私に合うのだと思う。理由を考えると2点ほどあって、まず想像が自由になるということである。陵辱的な描写はあまり濃く想像しなければよかったり、自分で幅を持たせることができる。好きに読み飛ばして、お気に入りの場面だけ読むこともできる。これは漫画でも同様ではある。次に、女性としての感覚や意識、内面がより詳しく描かれるというところもある。

 

しかし、快楽堕ちもなく、陵辱的でもなく、小説の体裁をとって性転換を描いている作品は他にもいくつかある。たとえば愛内なの「生徒会長と体が入れ替わった俺はいろいろ諦めました」(ぷちぱら文庫Creative)という作品がある。これはタイトル通り恋人同士の主人公(辰人)と生徒会長(愛佳)が互いに入れ替わったり、そのままの状態を交互に体験して性行為するという作品である。この作品(というより形式)の問題として、どちらがどちらかを描くのが難しくなるというものがある。

 

www.parabook.co.jp

 

> 愛佳は男の欲望の強さというものを大きく感じていた。つい先日、男になったばかりの少女には理性と本能のせめぎ合いを抑えられるわけがなかったのだ。しかも幸か不幸か、力のある存在。女の子の体を無理やり押し倒すなんて簡単なことだった。

「辰人くん!」

「う、うわっ! やめろ、愛佳! 押さないでくれ!」
 目の前にあった机をどけた愛佳は一目散に辰人のところまで向かうと、彼の肩を掴んで強引に転ばせたのだ。
p100-101

 

ここは互いが入れ替わった状況での描写になる。それゆえ、読み手は「いまは入れ替わった状態である」ということを念頭に置いて読んでいくことを迫られる。「目の前にあった机をどけた愛佳は一目散に辰人のところまで向かうと、彼の肩を掴んで強引に転ばせたのだ。」の一文では、見た目は愛佳である辰人のことを「彼」と地の文で描写している。どう感じるかは分からないが、このような書き方が全編で行われているため、一度整理しないと分からない部分がたまにあった。

 

このような部分と比較して、「目覚めると」で採用されている方法はとても分かりやすい。女体化した主人公を描くときは地の文での名前が変わるのである。この作品の文体はいちおう三人称ということになるが、内面に踏み込んで書いているので三人称的一人称でもあると思う。主人公は一条遼(いちじょう りょう)なのだが、女体化した際は「一条はるか」と名乗って学校生活を送ることになる。これが三人称の地の文でも徹底されている。すなわち男のときは「遼」、女のときは「はるか」と書かれている。ほとんど「はるか」の状態で物語は進行するのだけど。これは単なる分かりやすさだと思っていたが、他の作品と比較するとこの書き方が巧妙だと分かる。

 

また、入れ替わりという現象はどうしても相互性が強調される。「異性の視点で自分の身体がどう見えてどう感じるか」、「元の性別に戻った際に、相手がどう感じているか」などの視点が盛り込まれると、多少冷めてしまう部分が個人的にある。では入れ替わりではなく、陵辱や快楽堕ちもないような作品はあるかというと確かにある。

 

たとえばMay-BeSOFTから出ているエロ下「ちぇ〜んじ! 〜あの娘になってクンクンペロペロ〜」の小説版(ぷちぱら文庫)は、いわゆる乗っ取りを題材としている。主人公が(主に)意中の子へ憑依し、身体を好きに使うというものである。憑依された側の人格は意識がなくなるという設定がある。しかし人前で何か恥をかかせるとか、知らない人との性行為に及ぶなどはいかず、あくまで主人公と意中の子の関係性が描かれる。しかしこれがゲームになるとそうではなくなるし、そもそも他人の身体を好き勝手するという点での抵抗は個人的にある。小説版ではその色が濃く、他人の身体を自分で好き勝手するという意識、一歩引いたところから俯瞰しているような書き方が特徴的である。

 

parabook.co.jp

 

いままであげた作品もすべてが悪いというわけではなく、実用的ではある。ただ「目覚めると」における地の文において指す単語を変えるという方法は見たことがない。ほかの作品では外見がどうであれ男性主人公が行動するときはその名前を主語に置いているケースしかなく、これは独特だと思った。それと呼応するように「目覚めると」には他の作品にない魅力がある。ここまでもそうであるようにあまり性的な描写は引用したくないが、ぎりぎり出すと以下がある。

 

>胸に生じた存在感たっぷりな膨らみは重さも結構なモノで、女体化して日が浅い“少女”はそのバランスにまだ慣れきっていない。ブラジャーである程度緩和出来ていたのだが、こうなると弾力たっぷりな奔放球に身体がついていかず困ってしまう。
1巻 p229

 

>少年、いや、もうすでに少女のバランスを崩す。(中略)頬を上気させながら“少年”は、やっとたどり着いた自宅へ駆け込んだ。
2巻 p11

 

たとえばこの「“少女”」という描写は本編で数回みる単語であり、女体化した主人公を「はるか」と指す以外で用いられる。2番目に引用した部分は、一旦男に戻って通学していると女体化してしまい家に戻る場面である。ここでも「"少年"」に「しょうじょ」というルビがふられている。この書き方からも人物に対するこだわりが感じられる。また「奔放球」という造語がある。これは官能小説でよくあるのかは分からないが、行為においては独特の造語が頻繁に登場する。詳しくは書けないが、身体のどの部分がどう感じ、どう反応したかをじっくり描くのも、この作品の特徴であると思う。

 

また全5巻あるのも特徴的である。大抵は1巻で完結するこの手のものにおいては詰め込もうとした結果ひとつひとつのシーンが短くなったり、分かりやすい定番のシーンを次々と出して納得させるようなところがある。しかしこの作品は扱うテーマゆえの長さを生かした様々なシチュエーションがじっくりと描かれるうえ、何気ない戦闘シーンや日常の場面で女体化した自分を実感するシーンがあるのもうれしい。

 

シチュエーションとしては男の娘、女体化した男の娘、ふたなりになった女の幼馴染、男体化した幼馴染、など様々な相手との行為が巻を費やして描かれることからもそんな熱意を感じる。基本は「あとみっく文庫」から出ており物理本も電子書籍もあるのだが、4,5巻のみ「二次元ぷち文庫」として電子版だけが存在している。この4,5巻になると主人公があまり登場しなくなる。4巻は終盤ではじめて女体化したり、5巻にいたってはここまで展開した物語を回収するためのバトル的描写が主となり性的な要素はほぼない(一回だけ主人公と女性キャラの百合エッチがある)。そういう意味での真面目さも感じられて好きな作品である。

 

「目覚めると」にあるのは人称に対する工夫であり、従姉妹を護るという目標ゆえに快楽に堕ちることも、女性の身体を乗っ取ることも、どちらにも落とし込まれない絶妙な感覚を、全5巻の様々なシチュエーションや丁寧な描写で描いている作品である。具体的に性的な描写を出すのが憚られたので分かりにくいし、長くなったのだけど以上です。