日記_2022/1/10「2021年音楽振り返り 後編」

 

 きのうの続きです。ただ時系列で書いているだけなのだけど、期せずして前編はアニメやボカロ、後編は邦楽中心になりそうです。

 

 

6 MUJI BGM

 きれいに10の項目にするために増設した枠のようなものなのだけど、無印良品のBGMが今年はサブスクで解禁された。これを今年はよく聴いていたし、いまも聴いている。さすが買い物の邪魔にならないBGMというか、僕が幼いころから家族に連れられていてよく聴いていたからか作業用で聴いてもまったく気にならない。そのほかのジャズとかは気になることが多かったのだけど、これはそうでもなくて重宝してます。曲数も多いですし、料理しながら流すと外国の料理番組っぽくなるしでよいですね。

 

 

7 吉澤嘉代子 雪

 10月くらいに知ってから擦り切れるほど聴いたと思う。吉澤嘉代子氏の曲です。これが「自分の嗜好を形成する」としたのは、まさに文字通りの理由からです。もともと星野源の「エピソード」など、フォークソングっぽさがある曲が好きでした。それは薄々感じていたのだけど見過ごしていて、ちゃんと漁ったりしようとは思わなかった。しかし吉澤嘉代子を聴いたことで、ジャンルとしていまも歌っている人がいて、「好きなジャンル」として新しい棚が増設されたと感じたわけですね。前編のfuture bassや音madも「ジャンルとして作者単位で聴く」「音楽、映像作品として音madを見る聴く」という新しい棚が増設されたから選んだところがある。話を戻して、いま調べてみるとこのような記事があった。

日々の暮らしを舞台に「日常の絶景」を綴るという作風へと変化している。

 日々の暮らしの尊さみたいなのはまさに自分のツボ中のツボなんですよね(今年panpanya作品などにはまったりしたのも完全に繋がっている)

彼女の歌詞は短歌や小説から強い影響を受けていて、歌詞で影響を受けたのは松本隆くらいと本人が語っているが、80年代アイドル風の「綺麗」は、松本隆が作詞、松任谷由実呉田軽穂名義で作曲を手掛けていた時代の松田聖子を連想させる。

 短歌が好きというか今年は意識的に歌集を読むようにしたのでこれもつながっている。80年代アイドルは数年前から好きなさよならポニーテールだったり、中学から好きなパスピエとつながっている。

現在細野晴臣のバックを務めるミュージシャンたちが、いくつかの曲に参加している。そもそも曽我部恵一は90年代にはっぴいえんど譲りのフォークを鳴らしたサニーデイ・サービスでデビューし、その後のくるり中村一義、さらにはceroやYogee New Wavesへと至る、90年代以降のフォークの系譜において、重要な役割を担った存在である。そして、ここに並べたアーティストたちはそれぞれが細野に対するリスペクトを語り、昨年末に紅白歌合戦への出場を果たした星野源も、SAKEROCK時代から細野をリスペクトしていることはよく知られる話だ。

 フォークという認識は間違っていないようで、そして星野源SAKEROCKは中学生から好きだったのでこれで役満というか、好きになるのもわけないね、という感じである。それらが融合した好みとして吉澤嘉代子あたりを探ってみるといいのかもしれない、という指針になりました。いまはカネコアヤノを聴いたりしている。ちなみにこの記事にある「東京絶景」においてはmovie、手品、綺麗、ユキカ、東京絶景がすきです。

 

 

8 石風呂 ワンツーハロー

 またボカロへ戻るのだけど、吉澤嘉代子と同時期に好きになってました。まずいくつか説明しないといけないのは前編で「これ以降ボカロには触れない」と書いたことですね。ごめんなさい。しかし石風呂さんはボカロ的な側面というより、もはやひとつのバンドみたいな感じで見てました。あと今年の曲ではなく過去のものを聴き漁っていたので、「2021年のボカロ」として言及することとは違う気がするんですよね…。そして「好きになった」とあるのだけど、ずっと前から好きでちゃんと全曲を聴いてますます好きになった、というほうが正しい。

 過去の日記で『いわゆる「イケている」「リア充」的な人々へのルサンチマン的な立場を持つ「イケてない」僕たちの視点を歌詞に描きつつ、そのみじめさに自覚的な部分も意識して、それでも生きていくような歌だなあと思っています。』と書いてて、これに僕の感想は終始しています。そういうネクラさとポップさの融合が新鮮で、知らない性癖を開拓されたような感じだったので選びました。あと、次に出るポストロックが好きという気づきにもつながっているかもしれない。

 選んだ「ワンツーハロー」は何回も聴きました。TVアニメ「リコーダーとランドセル ミ☆」の主題歌らしいのだけど、陽気な曲調に反して歌詞は暗めというか不安を歌っていて、それを音楽で吹っ飛ばすような健気さに泣きそうになる。石風呂楽曲を中高生のときに聴いておきたかったと本気で後悔しているところがあります。

 

 

9 People in the box 八月

 People In The Boxは先日やっとサブスクにあるものを全曲聴きました。なのでどこかに感想を残しておくべきだと考えて、ここに書きます。まず過去に日記に書いていたのはこういうことだった。

感じているのはとりあえず全曲聴けばすぐ良さが分かる、というようなものではないな、ということですね。もちろん好きか嫌いかは何曲か聞けば分かると思うし、それでいうと好きなバンドだと感じた。しかし、まだ良さを理解できてない、よく評価が高いと言われている楽曲の良さが分からなかったり、ツボだなと思う曲は少なかったりする。何回も聴いていくうちによさが分かりそうである。

 それで全曲やっと聴きとおしたのだけど、まだよさは分かり切ってない部分がありますね、、。好きなのだけど、繰り返し聴きたいとはならない。これについて「好きな曲」=「繰り返し聞く」というのは成立するのか、ということに思いを巡らしていたことがある。別に好きな曲だからって何回も聴かなければならない曲はない、歌詞もメロディーも暗唱できない、でも好きな曲だってあるんじゃないかと思っていて、このバンドはそれだと感じました。ふと思い出した拍子に聴きたい。これを感じたのはカラオケで彼らの曲を歌おうとしたら、その曲は何回も聴いているのに歌えなかったことに由来していますね。コーラスが入ったりするように、歌詞ではない歌声が楽器のひとつとしてあるし、言葉の響きですら楽器の一部として鳴っているなと感じました。そういう意味で短歌とか詩の好みと繋がっているかもしれない

 関連すると、「歌詞もメロディーも覚えていなくても『聴いたことがある』と言ってよい」という基準を自分の中で今年の半ばくらいに感づいて設けて、いろんな曲を聴くようになった気がする。

 前述した「好き」と「嗜好を形成する」は異なるかもしれない、という感覚はこのバンドから来ている節がある。好きなのだけど、繰り返し聴くとかではなくて、たまに聴いて「やはり好きだ」と再確認して浸りたくなるような魅力がありますね、People In The Box…。

 好きだなと感じたのはこれらですが、あくまでそのときに直感であげたので繰り返し聴くとどんどん変わると思う。She Hates December、ヨーロッパ、レントゲン、笛吹き男、子供たち、汽笛、海はセメント、数秒前の果物、水曜日、金曜日、アメリカ、旧市街、スルツェイ、JFK空港、どこでもないところ、八月、物質的胎児、皿、塔、真夜中、夏至、潜水、新聞、翻訳機、月、風が吹いたら、季節の子供、町A、あのひとのいうことには、懐胎した犬のブルース あたり…。

 JFK空港とかかなり好きでした。これは途中で挟まる語りが印象的で、アルバムの流れも完璧だと思います。世界各国を並べてから着陸するのか、あるいは旅立つのか分からないけど空港へとたどり着く。しかしその曲で述べられるのは「燃える客室」「それはいつでも滑走路から/離れられずに燃えている」という言葉から感じられる、飛行機と死の気配なんですね。このどうしようもないけどゆるやかにゆっくりと絶望していく不穏さが唯一無二です。そうして最後にエンドロールみのある「どこでもないところ」へ行ってしまうのが本当に美しいし、この曲では「うちの庭」「寝室の窓」という歌詞からタイトルにある家族っぽさを回収しているのもかなりよい。

 あげた「八月」については過去に言及したこれですね。あとギターで弾こうとしてこの曲がおそらくカノン進行であると勘付いたのですが、違うかもしれない。王道の進行でも個性がここまで出せるの本当に素晴らしい。

 ハイスイノナサ等の照井順政さんがこの曲を絶賛しつつ、サポートをしていたという事実を知って繋がりにしみじみしたりしました。「朝 走る車をギリギリでひらりとかわす」に続く「突然 誰かにあって話をしてみたくなった/傷ついても」という歌詞についてよくTwitterで言及されているのを見たけど、このリアルな感情の動きに人間らしさが出ていると思う。朝に車に轢かれそうになって「あ、誰かに会いたいな」と思うのって結びつかないのだけど、そういう心の動きって確かにあるし、そこを捉えているのが絶妙…。曲全体を通して、「君」が生きていること、それは誰にも邪魔されるべきことじゃないし、「愛も正しさも一切君には関係ない」とあるように、存在をどこまでも肯定して祝福しているような、ラブソングとは違った根源的な幸福感みたいなものがにじみ出ていて、そういう八月の朝の澄んだ空気が満ちているようで、とても最高です。

 

 

10 カラスは真っ白 革命前夜

 滑り込みギリギリというか、年明けに聴いたのだけど綺麗に10でそろえるために入れます。ここに書かなくてもいずれ長々と語ることになると思うので…。これは「嗜好を形成する」とは違って、もともと相対性理論パスピエ等の好きだった棚に特大供給がぶち込まれたような衝撃がありました。ここまでツボなものがまだ10年前に残っていたのか、という鮮烈な驚き。高校のときに「パスピエが好きならこれも好きなはず」みたいにネットで紹介されていたので既に聴いていて、そのときはそこまで好きじゃないなと感じていました。いま聴いたらかなり好みだったので、変わっていくものだな、と…。

 おそらく相対性理論パスピエと並んで語られていそうなカラスは真っ白ですが、こちらはネットで調べると「ファンクポップバンド」とあるようにファンクっぽさが強いです。ばりばりのスラップベースだったり、カッティングを多用するクリーンギター、アコースティックなピアノなど生演奏のグルーヴ感が生かされているところに、やぎぬまかなさんの独特なワードセンスと浮遊感のあるボーカルが合わさっていて癖になる。ちなみにmaimaiにあるn-bunaさん作曲の「その群青が愛しかったようだった」を歌っているのもやぎぬまかなさんだったりして、そういうつながりもある。さらにその曲のイラストを描いているのは望月けいさん(前からTwitterでフォローしているイラストレーターさん)なんですね。「時間差チーズケーキ」というタイトルなんかは人生に残るレベルの名タイトルだと思います。ここにあげた「革命前夜」もかなりよくて、「じれったいの」という繰り返しの中毒性や四つ打ちとカッティングギター、踊れるミディアムテンポという好き要素がかなり詰まっていてよかったです。一番好きなのはまだ決められていない。

 

 

 という感じで、たぶん前後編合わせて1万字弱くらい語ってしまったのだけど2021年の音楽嗜好を振り返りました。やはり冒頭に書いたようにちゃんと記録しておくべきだと痛感していますが、期せずして各々、音楽以外の好きなものとの関連も勝手に見出して自己満足できたのでよかったかもしれないです。前述したように好みは変わっていくと思うので、来年を楽しみに今年はより貪欲に聴いて記録できればと思ってます。おやすみなさい。