nikki_20230312「ジョン・スタインベック『ハツカネズミと人間』」

 

 

読書会で読む必要があったので読んだ。ジョージとレニーというふたりの男が農場で働くことになる、という160pくらいの中編小説。このレニーがすごくて、その怪力で傷つけるつもりはないのに相手を傷つけてしまう。殴りかかろうとした相手の手を掴んで離さずにいたら手の骨が粉々になるシーン、女性の髪をなでているつもりが強くつかんでしまい、暴れる彼女に対してパニックになってしまった結果、首を折ってしまうシーンなどはもはやコメディの域で笑ってしまった。これは読書会で出ていた意見だが、しかしこの「傷つけるつもりはないのに傷つけてしまう」という思い通りにいかない彼の性質自体が人生の不条理さという物語自体のテーマを映し出しているようなところがある。そのなかで物語を想像して生き抜こうとする人間の姿は、小説というもの自体の在り方を語っているようでメタ的だとも思った。

 

もとが戯曲ということもあり演劇的だった。狭い馬小屋の中にたくさんの人間が集まり、そのなかの数人がしている会話が次々にフォーカスされていくところがカメラ回しのようで面白かったし、あとは劇としての場面転換をはっきりと作っているようなシーンもあってよい。ラストシーンではジョージがレニーを撃ち殺してしまうのだが、レニーに気づかれないように話しながらゆっくりと銃を構えていく緊張感の高まり方もよかった。このシーンではこれまでに登場したモチーフが反復されているという指摘も読書会ではあった。少ない登場人物と舞台で結末は予測できても、そこに至るまでの筆運びが上手いのは大事なのだなということを考えていた。密室劇・会話劇など、こういう短くて限られた道具立てや人物のなかで物語が展開する話がやはり好きなのかもしれない。