京都文フリで購入したもの。書店でも売っているのかは分からないが限定1000部だったらしい。
木下龍也氏のくろだたけし氏は、唐突な言葉や過剰さもなく単なるひとつの光景や事象を描いている歌だと思った。読み応えがあるというより、読むたびに身体のなかを通り抜けるような虚しさを感じた。下の歌も当たり前のことを歌っているようで、あの隙間のもぞもぞするなんともいえない空虚さがある。
フロアーを区切る仕切りと天井の間を誰も通り抜けない
岡野大嗣氏選の多賀盛剛氏はネットプリントで以前読んだりしたことがあったのだけど、連作を通してだんだんと読んでいくうちにひとつの壮大な寓話を体験したかのような気持ちになる。受賞作も最初は「ほし」「うちゅう」「からだ」から始まって、「えいが」「せんろ」などが登場し、最後は「いす」と「からだ」の関係に戻っていくような作品だと読んだ。そのため、ひとつの歌をひいてあれこれいうものではないなと思う。
それぞれの十人十首選も好きな歌がかなり多くてよかった。こういう選考に送ってくるというのはそれぞれの作者の研ぎ澄まされたものが集まっているということで、それをあくまで選んだお二方のフィルターを通しているとはいえ精度の高いものが集まっているんだろうなと思う。あとは比較的年代が近い人が多いのも、好きな歌が多い一因な気がした。
レシピ本にはひとつも書いていないけれどひかり 白いひかりが必要です
太田垣百合子
タクシーをとめてりんご飴を見せてその隙に研ぐ名刀・村雨
志賀野左右介
「好き」と「すこ」のあいだに広い川があり「すこ」の岸辺にあるグラウンド
鈴木ジェロニモ
室外機の前に生えてる草だけがいつも踊っている校舎裏
中村ヒカル
思い出を数えるときに整数は等間隔じゃないよね ごめん
蓮尾見りり
君が十七秒で描いた天使が三十七年引き出しにいる
三角游
ひとひらをつかむ 詩集の集の音をふさいでそれを詩集だとする
青島もうじき
とおくまでいこうねバニラ高収入バニラバーニラこのはるやすみ
篠原仮眠
ぼくの羅生門だけが炎え上がらないきっと才能が無いんだよ
森下裕隆
あたしはもうずっと後悔したら負けのやばいゲームを続けてるんだ
山中千瀬