nikki_20220614「密室鍵紛失事件」

 

 ついてない日だった。予定のために家を出ようとしたら、鍵がなかった。突然の出来事。しかし今までに数回似たケースには遭遇しているのだ。落ち着いて対処するのみ、言い聞かせて周囲を探索する。それでもない。昨日の自らの行動、触れた場所を洗ってみる。分からない。あいにくスペアは無くて、外から鍵はかけられない。家を出るには鍵をかけないと防犯上かなり危うい。ここから導かれる帰結として、私は家から出ることができなくなってしまった。昨日はちゃんと鍵をかけて家に入った。ゆえに部屋のなかにそれはあるはず、これほど狭いのになぜ見つけられないのだろう。机、引き出し、冷蔵庫の下、くくったごみ袋の中身。部屋をいくつかに区切ってひとつずつ攻略してあらゆる場所を漁る手法。それも無駄だった。悪いことしてないのに何故ですか、そろそろ答えをくれたっていいじゃないですか、神に絶望しつつ3時間が過ぎた。もっと絶望となかよくなるべきなのかなと諦めかけて外に出た私に、雨天とむっとした空気が一気に襲い掛かる。そこに鍵は何食わぬ顔でいたのだった――ドアに半刺しになった状態で。あっけない解決だった。部屋の中に無いのなら外にあるのだ。厳密にはドアを部屋の一部とみなすなら半分は外で、もう半分は中に。密室の扉のなかに半分埋まって犯人は潜んでいたのだ。さながらミステリかウミガメのスープのような解決で興奮しつつ、急いで家を出た。自分でも意外なことに、見つかった安堵よりも家を出るべきであるという気持ちのほうが勝った。こういうときは安堵からしばらく気が抜けてだらだらしがちだが、そうでもなかった。扉を閉める。今度は鍵を失くさないように。

 

 足を動かしながら考える。前日は買い出しで両手に荷物を抱えた状態で疲れて帰宅し、鍵を開ける→両手で荷物をいれて入室→鍵を抜き忘れる、こういう論理だと思われた。厳密には探していた途中でドアを開けたことはあったのだけど、外の鍵穴までは見ていなかったのだ。それもこれもスペアを作っていれば諦めて家をでたときに見つかったはずで、スペアキーはあって困ることはないのだろう、と思う。赴いた先では見つかってよかったねと言われたり、マンションに住んでいるけど半刺しの鍵はよく見るよ、などと言われた。自分が今度みかけたら住人に指摘してあげよう、などと思いつつ部屋に帰宅する。そこには変化があった。部屋が少しだけ広くなっていたのだ。厳密には探すにあたって机などを除去したからそう見えただけだ。せっかくなので掃除機をかけたり、机の汚れをふきとる。そうして悪くない事件だったかもと思いつつ手を洗った挙句、洗面台の棚を倒してトイレの便器へスプレーなどが落ちて行った。やはりついてない日だった。おやすみなさい。