nikki_20220520「Hide and」

 

 それは主に集団で行われる遊戯で、名を「かくれんぼ」と言う。一人が鬼になり、残りの全員に目隠しをする。鬼は十を数えてから探し始め、隠れている者はいませんかと呼びかけながら歩き回る。そして、「もういいかい?」の問いかけに対して「まあだだよ」という返事があれば見つけることができたということになるが、そうでなければ見つかることはない。この遊びにはいくつかのルールがあり、そのひとつは「鬼は目を隠さなくてもよい」というものである。つまり、隠れる側は自らの位置を完全に秘匿することができる。

 


「これはなにも、鬼にだけ有利なルールではないんだ。むしろ、隠れている者を探すという行為自体が、すでにゲームの一部になっていると言ってもいい。例えば、ある人物を探し出してほしいというような依頼があるとするだろう? その場合、探偵はまずその対象を見つけ出すことから始まるわけだが……、そのときにまずすることはなんだと思うね?」
「……えっと、やっぱりまずは聞き込みとかかなぁ」
「うん、それもひとつの手ではあるけれど、この場合は違うよ。それはね、対象者について調べることなんだ。どこに住んでいるのか、どんな仕事をしているのか、趣味は何か、好きなものは何か、嫌いなものは何か……」
「………………で、かくれんぼは?」

 

 

 僕たちは公園にいた。平日の昼下がり、二人きりで。いい年をした二人の男性がどうしてこんな遊戯に対して議論をしているのか。それには主に2つの理由があった。ひとつはもちろん、僕の目の前にいる男が原因である。彼は大学時代の友人であり、今はフリーターとして生活している。僕は大学四年生のときに就職活動に失敗して以来、ずっとフリーターだった。そしてもうひとつは、僕らがいる場所にあった。僕らがいたのは、小さな児童公園の中ほどにある滑り台の下だった。そこに隠れていたのだ。かくれんぼをして遊ぶために。

 

 

 なぜそんなことをしているのかと言えば、理由は簡単だ。暇だからである。特にやるべきことも見つからず、ただ漠然と日々を過ごしているだけの僕らにとって、日常から逃避する唯一の方法は「非日常的なことを楽しむ」ことだった。かといって冒険心旺盛な性格でもない僕らにとっては、日常に潜む些細な危険に身を晒すような行動に出る気概も持ち合わせていない。そこで考え出されたのが「かくれんぼ」であった。ここで当然のようにひとつの問題が生起する。この公園には2人しかいない。そうであれば、隠れている僕たちを探すのは一体だれなのだろう? もちろん、公園内を探して回るのは鬼の役割である。しかし、それではあまりに不公平ではないか? 僕たちが求めているのはそういうものではないはずだ。

 


「探すべきものが見つからないとき、人は誰だって不安になるものだよね。自分以外の誰かが探し始めてくれないだろうかって思うものだよ。でも、誰も探し始めないとしたらどうなると思う?」
「うーん、まあ、探し始めるんじゃないかなぁ……。誰かひとりくらい」
「うん、そうなんだけどね。たとえば君と私が同時にいなくなったとしよう。その場合、私の方が先に見つかる可能性は高いんじゃないかな?」
「どうしてさ?」
「君は背が低いし、足音を立てないように注意しながら動くことができるけど、私は普通に歩くからね。しかも、靴を履いているわけだし」
「あぁ……」
言われてみればそうだ。たしかに彼の言うとおりかもしれない。
「じゃあさ、逆に考えてみようよ。」
「逆?」
「そう。もし僕が先に見つかってしまったらどうかなって」
「えぇ~……」
「もしもの話だよ」
「うぅん……、まあいいか。そしたらさ、僕が『もういいかい?』って聞くよ」
「ふむ」

 

 

 ところで、ここまでの話だと僕たちはずっとこの滑り台の下に隠れていることになる。そしてそれは事実だ。僕たちは考えた。住んでいる町から遠く離れた公園まで行って失踪したとして、僕たちを誰が気に掛けるというのだろう。あるいは、誰も気にせずそのまま生活は続くのかもしれない。所詮友人が目の前の男しかいない僕にとっては当然の帰結ともいえる。いや、そもそも最初からわかりきっていたことなのだ。それでも僕たちはここにいて、こうして話をしている。

 

 

 それがなぜかといえば、結局のところ、僕らはかくれんぼをしている最中だったからだ。僕たちは隠れていて、相手を探している。このかくれんぼの相手を。探してくれる鬼の存在を。僕は滑り台の下で息をひそめながら考える。鬼はどこにいるのだろう。今まさに僕らのことを必死になって探し回っているのだろうか。それとも、僕らの存在などまったく意に介さず、普段通りの生活を営んでいるのだろうか。わからない。わかるはずもない。僕らは鬼ではないことだけは確かだ。僕たちの日常から逃げ出さなければならないような何かが起きたわけではない。ただ、なんとなく退屈だっただけだ。日常から逃げ出すために始めたはずのかくれんぼだったが、いつの間にか僕らの日常そのものになりつつあった。そして、そのことにも気が付かないまま、僕らはかくれんぼを続けていた。

 


「もういいかい?」
「……もう、いいんじゃないですかね」
「……うん、そうかもね」
「でも、見つからないね」
「見つからないねぇ……」
僕たちは互いに顔を見合わせる。
「……もうちょっとだけ、待とうよ」

 


 この応酬を続けて今に至る。ざっと1年くらい。僕たちには名前がない。あえて名付けるとしたら、無職の引きこもりということになるのだろうか。かくれんぼの鬼は僕たちを探さない。僕たちも鬼を探したりしない。だからといって、いつまでもこんなことをしていていいわけでもない。そんなことはわかっている。僕はゆっくりと立ち上がる。僕よりも少しばかり高いところにある彼の瞳を見る。僕たちは、僕たちが見つめ合っていることを確認してから、同じタイミングで目をそらす。

 


僕は自分の身体を見下ろす。僕の服には何の汚れもついていない。
彼は僕の足元に視線を落とす。僕の靴には泥がついている。
かくれんぼの鬼が僕を見つけることはない。
だから、僕は鬼を探す必要はないのだ。
でも、僕は隠れ続けることはできないのだ。
だって、彼が僕を見つけてくれるのだから。
そうやって、僕たちはずっとかくれんぼを続けている。
僕らはきっと永遠に見つけられない。

 

 

 なぜなら、こうして隠れているうちに世界からはふたり以外はいなくなってしまったのだから。これが小説なら、僕たちは鬼を探しにいくべきなんだろう。まだ見ない鬼を。これは、世界をかけたかくれんぼだ。だけど、鬼を探すことに意味はない。鬼なんて存在しないのだから。

 


「なあ、俺達、いつまでこうしているつもりなんだろ?」
「さぁ……。ずっとじゃないかな? 少なくとも、僕が死ぬまでは」
「……そっか。まあ、それも悪くないかもな」
「そうかな?」
「うん」
「じゃあ、そうしようか」
「ああ」
「うん」
とりあえず今日は眠ろう。
「おやすみ。」*1

 

 

*1:この小説は、AIのべりすとと遺失物届によって執筆された。割合は9:1ほど。有料のプレミア会員になり、円城塔の文体を再現したというmod「オブ・ザ・ペン」(オブ・ザ・ベースボールが参照されたテキストらしい)を使用してみたのだが、全くそれらしさが出ず支離滅裂になったのは読んでいただければわかるとおりである。