nikki_20230604「読書日記(漫画編)」

 

ここ数か月で読んだものの感想です。

 

 

宮崎夏次系『僕は問題ありません』

まえにTwitterでひとつだけ短篇を読んだことがあったが、ちゃんと読んだのは初めてだった。唐突な展開や独特に絵柄にモチーフの組み合わせで、台詞やコマの密度がそこまで高くないのですぐに読めてしまう。でも内容や骨組みを取り出すとこんなにさらっと読み流していいのか?という重い話ばかりで、すごい奇妙な気持ちになった。「地図から」の「続けていくんだろう生活を ぼんやりとこのまま」、「肉飯屋であなたと握手」の「僕は彼女を軽蔑する だけど どこかで元気で居て欲しい」という台詞が好きだった。問題に対して世界や原因の側が変わるのではなく、個人の中での心の動きが綴られているような気がする。

 

宮崎夏次系『変身のニュース』

結末でぶっ飛ぶ話が多い。それまでファンタジーではなかった暗い話が、突然ファンタジーになって終わって、シリアスな感じが一転するかと思うけど、どこか切なさが残るようだった。泣きたいけど泣けないとかくしゃみが出そうで出ない、みたいな絶妙な読後感があって良い。全体としては物悲しい気持ちになってしまった。

 

つくみず『シメジシミュレーション』4

日常が少し捻じれていくイメージの作品は結構多いが、この作品ではそのグラデーションを模索してるような感じがする。

 

こかむも『ぬるめた』3

「#31服」かわいい。「#32犯人」モブのキャラクターたちが中心となっていてすき。あと図書室の机という固定されたシチュエーションの会話劇なのもすき。

 

こかむも『クロシオカレント』1

言葉で表すとナンセンスSF群像劇コメディー?、そうとも言い切れぬ絶妙なこの人の味がある。『ぬるめた』しか読んだことがないので、こかむも氏の非4コマ漫画を読むのは初めてだった。p31のラインのやりとりとコマの遷移を並行させる手法とか、ぬるめたでもあったし4コマの痕跡はあると思った。

東堂院マナさんすき 縦ロールツインテールお嬢様というのはベタだけど、これをこかむも先生が調理するとこうなるんだねという面白さがある。異なる家庭の環境を描いて、最後にそれが学校の教室に収束するのがよかった。これは別に珍しい構成ではないけど、たしかに学校の教室って、異なるバックグラウンドの人々が集まって化学反応が起こる場所だよなあと思い出した。装丁もカバー裏までおしゃれで、こういう女の子が増殖する絵ってやはり良いよねと思う。

 

福島鉄平『放課後ひみつクラブ』

物語のあらすじ自体は珍しくない(と書くのもあまり漫画を読んでないのに申し訳ない)気がして、この絵柄と会話のテンポ感でやっているのが効いているのかなと思う。別にすごいミステリってわけでもないし、真相に膝を打つ意外性があるというわけでもないしロジカルでもない。ただ読ませる面白さがあって、なんなんだろう? 単純に蟻ケ崎さんのキャラクターがかなり好み。

 

三島芳次『衒学始終相談』1

蜃気楼みたいな漫画というか、結局なんの話を読んだのか分からないし、たくさん理論とか話されているようで、中身が全くないような狐につままれたような感覚になる。いろいろな理論を博士は提唱するんだけど、各話ごとにリセットされてしまう。この人はコマの密度が低くて、線が太く分かりやすいのですぐ読めるはずなのに、読んでいてなんともいえないむず痒さに襲われ、途中で休憩しないと読めなかった。第4話「ウニのひみつ」はwebでも読んだ回だけど、つくみず氏あたりに言及していてよかった。思えばこの博士の造形自体がつくみずっぽい(シメジにおけるしじまの姉など)。

 

三島芳次『児玉まりあ文学集成』

>文学少女には二種類あるの/「どんな事を書くか」に意味を求める人と/「どのように書くか」に興味がある人/私はあとの方/文学という形式のテクニカルな面だけに関心がある

同じくむず痒くて途中で休憩しながら読んだ。広義の文学ではあるのだけど、この人達がやっているのはレトリックや言葉遊びで言語学っぽさがある。しかし元ネタなのかなんなのか各話ごとに文学作品が付記されていて、それらを読んだらまた見え方が変わるのかな。言語も文章を構成するという点でもちろん文学なのだけど、みなが思うそれとは違うようで、文学少女と文学というテーマをこういう切り口でやって、漫画が書けるんだという面白さがありました。私も言葉遊びをよくやるので……。児玉さんが普通にすき 彼女の顔は基本的にはっきり描かれないようで、肝心なコマで解像度が上がる?という工夫もある気がする。

 

毛塚了一郎『音街レコード』A面/B面

「音盤紀行」がかなり好きだった作者さんの作品集。コミティアなどで書いていた漫画を集めたものとのこと。主に趣味としてレコードを買う、ということを描いた作品が多めで、知らない世界として興味深く読んだ。レコードと同じサイズ感の装丁、中のデザインもジャケットっぽさがあってすき。知らない世界、と書いたとおりレコードにはほぼ馴染みがないのだけど、ブックオフなどで見かけるたびにジャケットっておしゃれだなと思っているので、それが漫画にも生かされていると思った。知らない街角やお店のこと(その細かい描写!)、音楽のこと、それらが人をつなぐことなど好きな要素が多くてよかった。次の作品もたのしみ

 

さよならポニーテール『きみのことば』

さよならポニーテールは主に音楽方面のアーティストだが、活動の初期に書かれていた漫画がいくつかある。彼女たちのmvで唯一ちゃんと動いてるのって「光る街へ」くらいなのだけど、そのときに描かれているそれぞれの個性って、やっぱりこのときから健在なんだなという気がしてうれしかった。絵柄は宮崎夏次系っぽさがある。話自体はゆるふわ、最後のめがねくんとの別れは唐突すぎる気もしたけど、案外別れはこれくらい唐突であっさりしてるんだよなというリアルさもある。曲の要素もちらほら拾っていてよかった。そして番外編の「きみのことば」で描かれる出来事は「魔法のメロディ」(曲)でも描かれていることで、時と場所が離れていても音楽で繋がること、これなんだよな~。

 

さよならポニーテール『星屑とコスモス』

別冊マーガレットに連載されていた作品というところもあり、各話の扉絵が少女漫画を意識しているのか、かなり可愛くて素晴らしい。初代神さま(ゆりたん)の絵の印象は弱かったのだけど、漫画を読んでみてこれはすごいなと思った。お話し自体は「きみのことば」から健在で、しかしファンタジー色が強いなと思う。水や泡の描写が細かくてすき。市川春子を思い出した。「小さな森の大きな木」はまだ読んでないのでまた感想を書きます。

 

平方イコルスンスペシャル』

これまでもネタバレはしてましたが、大きくネタバレします。

 

何……?という感想がまずやってくる。とにかく2巻くらいまで学園生活をつづった話が、3巻あたりから不穏になり始めて4巻で大きく動く。しかし事の全貌はよく分からないまま終わってしまうという構造だと理解した。体裁としてはもちろん葉野と伊賀を中心とした群像劇だと思う。個性的なキャラとギャグを交えつつも、2巻までは複数人の複雑?な関係が描かれる。確かに学校の人間関係ってこんなだよねというリアルさがあってよかった。

しかし3巻からの崩し方はやはり意図的だし、結末を経ると1,2巻の様子ですらまともに読めなくて不穏に見えてくる。それまでに描かれていた主に1対1の会話の妙が、終盤になるとサスペンスを高めていく方向へ応用されて印象が変わるのは熱かった。

これは「意味が分かると怖い話」みたいなものかと思うが、そのような卑俗な文脈に落としたくはないし、そうでもないと思う。その理由として、まず何が起こったかの全貌が説明されない点がある。これは群像劇という体裁もあって、そこを悟らせないような書きぶりだと感じた。もちろん細かい描写を突き詰めると全体像を推理できるかもしれないが、考察向けっぽくはない気がする。次にこれが8年かがりの連載、80話あるということ。数年かけて前フリを作った、とするのはなんとなく違って、2巻までの話にもちゃんと思い入れがあるはずである。そうして積み上げて、こうブン投げるということ自体のなんかしらの意味があるのだろう、と考えている。

日常系の閉鎖された環境を俯瞰している話なのかと思った。こういう話で描かれるのは、あくまで物語が切り取った範囲の出来事に限られている。その外側にある得体の知れない何かを描こうとする試みかもしれない。読み返すとすべてが不穏に見えるという話があったが、たとえば豆ばかり食べている子とかよく吐く子とか、馬で通勤したがる先生とか、そこにも裏があるように見えてくる。そういう既存のコメディに対して、ひとつの見方やオチをつけようとしたのかな

考えてみるとタイトルが「スペシャル」=「特別な、特殊な」というのも意味深で、特別ではないような日常を描いておいて実はそれは異常だったとすることを最初から想定していたタイトルな気もする。と考えていたことをここまで書いて、ほかの人の感想を見たところ、もっと細かい会話とかコマ割りの話をするべきな気がしてきた。

 

猫にゃん『ニチアサ以外はやってます!』

漫画表現の独特さからおすすめされた作品。画像を貼って解説するのはほかの人がたくさんしているだろうし、面倒なのでしないけど、漫画表現における工夫を開拓するぞ~という意気込みの描写がたくさんでよかった。

1巻のクライマックスである映画予告編は枠を使わずに4コマの構成をとるという大技をやっている。これは4224「グレーゾーン」(まんがタイムきららMAX2012年8月号に掲載された枠を一切使わない伝説の4コマ読み切り、筆者は未読)をリスペクトしていると思われてすごかった。これをここぞという部分でやるのは熱いし、リスペクトをどこまで読者が汲み取ると想定していたかは知らない。しかし作者の漫画への熱意と、登場人物の特撮への熱意、それが重なって感動する部分だった。この技法はラストの映画シーンでやってもいいと思ったが、映画シーンは4コマで特撮を表現するぞ、というまた違った意気込みが感じられてよかった。

映画シーンもそうだし、アクションシーンなどの作画がしっかりしていて特撮すきなんだな~というのも伺える。構成も、全2巻でありながらそれぞれの関係性やエピソードもしっかり配置されていて、ある種王道スポコン的な話でよかった。

 

幌田『またぞろ。』

高校で留年した子たちが主人公の漫画。評判は聞いていたものの、同じ立場が確定している人間としては読むのが厳しく、ガハハ!と笑いながら読ませていただきました。きらら4コマは詳しくないけど、こんなしんどくなることってあるんですね

ぼざろのライトな陰キャあるあるとはまた異なる、よっぽど生々しい生きづらさが突きつけられるような作品だった。主人公が文化祭でうまく手伝うことができなくて、でも同じく留年している友達は手伝えていたから同じクラスの子と話せている、一緒に歩いていて同じ学年の子が歩いてきたときに友達は話せてるのに、自分はうまく話せない……みたいなのとか、ぼざろとは別ベクトルのグロさだと思う。先生の側の苦悩とか、先に進級した同級生の内面も描かれる分、いまの自分もそう思われてるのかななどと色々と思いを巡らすことになった。留年しかけの子が出てくるのもしんどい。

 

 

>留年してるんだから人一倍頑張らないと

 

 

 

>「あの日言ったみたいにまだしっかりしたいと思ってるの?」「それとももうずっと一人じゃ何もできないままでいいと思ってるの」「わ わたしは…! どうなんですかね?」

 

こことかすごい。麻理矢からの「しっかりしないと」という重圧、それに答えられずに逃げようとしてしまうもどかしさ……。この麻理矢さんは結局「しっかりしないと」という正しさを押し付けることは主人公のためにならないから、と接し方を変えるのだけど、そこにも得も言われぬつらさがある。もちろん人には人のペースがあるから、ということではあり、漫画ではさらっと解決したように流されるが、それを態度ではっきり表されることのしんどさはあるのではないでしょうか。これは漫画の描き方が悪いのではなく、それも分かったうえでライトに描かれているようなのがすごいと思った。

内容についていろいろ言及しましたが、絵柄がかなり好みだった。偶然読もうとしたときに3巻で終わるニュースが流れてきて、読みたいと思う。あと作者さんのほかの作品があったらまた読みたいですね。

 

 

 

 

以上!