nikki_20221114「星野源『エピソード』について」

 

これを書いている今日11月16日に紅白の出演者が発表され、そのなかで星野源の8回目の出場が決定していた。だからというわけでもない、きのうの日記でミスチルについて話したので次は星野源かなということで書く。彼に関しては好きな曲というよりアルバム単位でこれが好き!と話したほうがいい気がするので、そうする。

 

前に好きなアルバムについて書いたのはパスピエだった。

 

日記_2021/12/9「パスピエ『演出家出演』について」|遺失物届|note

 

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この「エピソード」は中学のときに聴いた。こう言うのもなんだけど地味なアルバムであり、万人受けするわけでもない気がする。実際、当時これを聴いた僕は即座に好きだと直感したわけでもなかった。おそらく、せっかく買ったし……と何回も繰り返し聴いて最近やっと好きになれたような、そんなアルバムだと思う。

 

万人受けするわけでもない、とした理由として陰鬱な歌詞が多いというのがある。しかしそこで描かれていく様々な「エピソード」の光景が重なることで、生きていくそのままを描き出しているようである。僕が群像劇が好きだったり、人々の生活の営み、必死に生きていく様子が重なって社会や世界を織りなす美しさに萌えているところはたぶんこのアルバムからきている。1曲ずつ書いてみる。

 

エピソード…アニメ1本を見るときの歌らしい。思いを馳せてるんだろうな~みたいな間奏すき

 

湯気…生活の中の湯気という存在から死や悲しみを想起させる感覚、この前のアルバムである「ばかのうた」に通ずるものがある。

 

変わらないまま…「さらば人気者の群れよ 僕は一人で行く」とかいう陰の雰囲気全開の歌いだしすき。わりと自分と重ねていたかもしれない。「耳を塞いだ音楽と 本の中で暮らす」というのは今の自分と変わってないのかもしれない。

 

くだらないの中に…先にシングルでリリースされていた曲。変態の歌らしい。「くだらないの中に愛が 人は笑うように生きる」っていいですね。くだらないことを一生懸命にやっている人は好きで(だからこそ音madとかのなぜベストを尽くしたみたいなのが好き)、それもここから来ているかもしれない。

 

布団…夫婦の歌? 歌いだしの布団の外が冷えている感じがいい。

 

バイト…数えきれないくらい歌ったかもしれない。なんといったらいいのか分からないやりきれなさのある歌詞

 

営業…保険会社?の営業の歌。どこもそうかもしれないが、自分の家でもそういう営業が来たりしたら「またか……」みたいに居留守していた。僕もそのせいで悪いイメージがあったのだけど歌では訪れる側から描いているわけで、そういう他者に代入する想像力みたいなものを学んでいたかもしれない。これも割れ切れない重さがある。

 

ステップ…ちょっと明るい曲きたか?と思ったら墓参りの歌なのすごすぎる。死別した人への悲しみをそのまま悲しく歌ったり、前を向いて明るく歌ったものはわりと多い。ここでは墓参り自体を明るく歌うことで、そのままの雰囲気を写し取れている気がするな。「世界はいらないな」って歌詞いい。

 

未来…夕暮れの風呂場の感じとか、ふいに自転車のスタンドを蹴り上げる瞬間ってこんな感じだな~と思う。曲のイメージが後付けされている説もある。希望に満ち溢れているというわけでもない、小さな希望の種としての未来のイメージ

 

喧嘩…8分の6拍子。前の「老夫婦」あたりとつながりがあるみたいに本人が述べていたと思う。「他人なの いつまでたっても」は家族の本質的な部分な気がする。

 

ストーブ…ここでさらにお葬式の曲なのだけど、「通夜で寝てた馬鹿も声を上げるよ」みたいなディティールがいい。死体と対峙して棺桶ごと燃やすまでという暗い場面がアコースティックな音につつまれて歌われる、そのなんともなさがいい。「君のいれものに/またね さようなら」で終わる歌詞、いいですね

 

日常…「誰かそこで必ず聴いているさ/君の笑い声を」あたりの歌詞に何度も勇気づけられた気がする。すごい励ますわけでもないし、なんというか少しずつ進んでいくささやかな日常そのものの在り方を肯定してくれるような素晴らしさがあるなあ youtubeで公式からフルで聴けるので、アルバムを買うまではそれをウォークマンに録音して聴いていた思い出

 

予想…死後の世界の曲で締めるのがよい。心なしかいままでより前向きなようにも思える。死んでるけど。

 

こうして全曲を描いてみると、後半は名詞のタイトルばかりだなと気づいた。あと、どの曲も何かを肯定するでも否定するでもないようなものばかりで、こうなんと言えばいいのか分からないアルバムだなというのに尽きることが分かった。精神状態によって受容の仕方も変わるだろうし、それがそのままこの世界の在り方と重なるようでもある。「エピソード」、筆舌に尽くしがたいアルバムだと思う。