nikki_20220504「読書日記 その2」

 

isitsutbustu-todoke.hatenablog.com

 

 最近読んだ本の感想です。過去の日記の引用というズルが多いです。

 

 

 

 

 

 

panpanya「二匹目の金魚」

 

 過去の日記で述べていたので、そのまま引用します。


 春先の話が多かったというか、部屋の中というよりも外を題材にして歩き回るような話が多かった。いま読めてよかったかもしれない。でも改めて見返すと「楽園」春のweb増刊において更新された「春の導き」「真偽」の2編しか、春であることが明確な話はなかった。それでも全体的に春を感じたのはやはり舞台が外だからかもしれない

 

 印象に残ったのは「知恵」という話の「いつもの通学路が持ち物ひとつでこんなに豹変するなんて…」というくだりでした。話としては通学路の帰り道でリヤカーをひいて帰ることになったが、歩いて通れる道もリヤカーでは交通の規則的に通り抜けできなくなったりしてしまい、帰れなくなる…というものである。こうして説明するとよく分からないのだけど、読ませる良さがあるのがpanpanya作品…

 

 話は逸れたのだけど、例えば証明写真を撮りたくて街中を歩くとなかなか証明写真が見つからないことがある。そのとき、視線は「証明写真機がありそうなところ」に目を向けてしまい世界が変貌する。ちょうど1年前に同じことを言っている

 

証明写真機、というのはなかなか見つからない。意識しなければ街の景色のなかにいとも簡単に溶け込んでしまう。そして「それ」を意識し始めた途端、いつも見ている光景が宝探しのダンジョンのように思えてくるのだ。これは腕時計を忘れて街中で時計を探す感覚や、消しゴムを無くして代用品を考えて筆箱の中を漁る感覚に似ている。普段は意識しないものを意識することで、見え方が変わってくる。

日記_2021/4/11「証明写真機」|遺失物届|note

 

 僕がこのとき感じたことがpanpanyaの漫画に落とし込まれているようで、街が表情を変える感じとかも描かれていて、うれしかったです。

 

自分がでていてうれしかった

 

 

 

 

 

panpanya「グヤバノ・ホリデー」


 読後の自分のメモには「最高。」としか書かれていなかった。いつも通り短編集なのだけど、グヤバノという果物(実在する)を探しにタイまで行った虚実ないまぜの旅行記「グヤバノ・ホリデー」という連作が入っていることからこのタイトルになっている。

 

 異国の旅行記としてもだし、この作者が旅行するとこういうところに目をつけるんだなという視点も感じられてよかった。しかし印象に残っているのは全く別の短編「いんちき日記術」である。夏休みの宿題で書かなければならない日記を捏造する…という話なのだが、途中から主人公が自分の想像した近所を歩きだす。つまりは自分の想像の中の街並み、それを実際に歩く描写がある。これが「日記を書いている」ということを意味しているのだろうけど面白い。想像の中で「この建物はなかった」と判断したら景色から建物は消え、記憶があやふやだと建物がぐにゃぐにゃになる。

 

 以下のコンビニがなかったことが分かるシーンとかよかった。前例はあるのだろうけど、新しい表現を体験したというかそんな気がする。

 

 

 

 余談めいているけど表紙の手触りも良かった。panpanya氏の本は表紙、それをめくった下の本表紙?の手触りまで工夫されていてそれは毎度のことではある。今回はなんとなく缶詰の表面というか、マニラ紙というのだろうか? つるつるした質感が東アジアで売っているものっぽさを連想させてよかった。どこからこのイメージが喚起されているのだろうか?

 

 

 

 


逢坂冬馬「同志少女よ、敵を撃て」


 読む機会があったので読んだ。言わずと知れた有名作で、本屋などでは必ず見かけたのではないでしょうか。個人的にはそこまででした。これは僕が海外を舞台にした小説や、歴史・戦争ものを初めて読んだ・疎すぎるからかもしれません。(結局どちらが勝ったのかもよく把握していなかった)知らない世界を知れて、並に面白かったです。あと純粋に戦争は愚かだ、というのに尽きました。最初と最後で少女としての主人公がどんどん人を殺すことに慣れていくという姿は衝撃ではありました。

 

 正直、これが流行って・売れている理由が分からなかった。本屋で大量に売られているということは、普段そこまで本を読まない層までリーチしているのかなと思う。しかしここまで骨太で長く、複雑な戦争の情勢に戦略・地名がたくさん出てくる話が世間一般で本を読むような人に熱烈に支持されるのか?というのは疑問ではある。

 

 あとは最近ソシャゲ関連で狙撃している・あるいは狙撃手女の子のイラストとかをよく見かけるのだけど、きっと厳しい訓練を受けているのだろうなと思いを巡らすようになったのも変化のひとつではある。

 

 

 

 


谷川電話「恋人不死身説」


 歌集。嫌いではないのだけど、そこまでという感じでした。恋愛小説してるというか、タイトルからも分かるようにふたりの生活に焦点を当てた歌が多いという印象です。

 

 

カーテンを外した窓が四角くてなんでこんなに四角いんだよ
(目覚めても夜 より)

四角いことに怒りを覚えるの、シュールなのだけど分かる。

 

 

ふたりして小声で話す気を抜けば敬語をきらきら海に落として
(ウェイク より)

「敬語をきらきら海に落として」がすき。敬語ってきらきらしている印象が無いのだけど、海に落とすときはきらきらするという

 

 

ゆずソーダ買ってくるのを待ちながら持ち物たちをしみじみと見る
(音符かな より)

ディティールがあるなあというか、待っている間ぼーっと荷物を見たりする時間ってあるんだけど、それを言葉にはなかなかしにくいのですごい。

 

 

 

 

 

暮田真名「補遺」「ぺら」


 暮田真名氏による川柳の第1、第2句集。暮田氏は「はじめまして現代川柳」でよいなと思った人です。どちらも私家版であり、はるばる北海道の書店に委託されているのを取り寄せたりした。そして先日めでたく「ふりょの星」という句集を左右社から刊行している。買ったのでまた読みます。「ぺら」は本当に新聞紙くらいの1枚の紙に川柳がびっしり印刷されているという、謎の体裁を持った句集である。寝床に敷いて見下ろしながら読みました。すべてかなりよかった。例えば「補遺」の最初から2番目にあるのが以下。

 

銀色の曜日感覚かっこいい
(一億総家出社会 より)

 

「銀色の」「曜日感覚」「かっこいい」と綺麗に575に分かれている。そしてそれぞれに関連性がない。さながら、ジェネレーターで無作為に3つの文節を並べたら生成されたような句に見える。しかし、銀色の物体がかっこいいという価値観は分かるような気がする。その「何か」が「曜日感覚」であることによって奇妙さが出ている。また、きっちりと定型にはまっているからこそ「曜日感覚」の整然とした印象・銀色の凛としたイメージが連想されるようでもある。

 

 この句でも端的に象徴されているがこの本というか暮田氏の句は、一般的に用いられている語句、それを意味ではなく語感で捉えて世界を作っているように感じた。この言葉ってあれっぽいよね~みたいなのをはらりと見せられるようで楽しい。

 

保険機構が透き通るよう

(補遺 より)

保険機構という言葉の響きから透き通るようなイメージを僕は感じる。保険機構って言葉、透明感がない?みたいなのを話しかけてくれるようである。これが含まれる連作「補遺」は全部よかったので、ここに載せたいけど我慢します。

 

 以下もよかったです。

 

火事と余白の気配は同じ(プラバルーン より)
階段がぼくのときだけ翻る(順手 より)
出血後、とても無口な。薄明の。(出血 より)
ぼくたちの海賊版の夏休み(ぺら より)
エマージェンシー エマージェンシー 連弾を(ぺら より)
半分になる車体感覚(ぺら より)

 

 

 

 

 

さよならポニーテール「奇妙なペンフレンド2」


 僕の好きなユニットこと「さよならポニーテール」が刊行した本の2冊目。どんなユニットか説明すると長いので、ナタリーの説明が分かりやすいかもしれない。

 

natalie.mu

 

 これまで詳しい活動を紹介してこなかったさよポ二のメンバーそれぞれのエッセイやインタビューを収めた本である。しかしこれを読んだところでさよポ二の全貌を隅から隅まで知れる…という地図のようなファンブックではない。あくまでさよポ二ワールドを探索するコンパスを与えられたに過ぎないようで、そこも醍醐味がある。これも同人誌のような感じで、注文して読んだ。

 

 この巻は曲を作っているメンバーへのインタビューが中心であり、純粋に個々の音楽のルーツを知ることができたのは楽しかった。加えて洋楽や古めの年代の楽曲など知らない楽曲がたくさん出てきて、そこもよかった。「新世界交響楽」がピチカート・ファイヴの「大都会交響楽」のオマージュという話も嬉しかったです。渋谷系は気になっているジャンルで、ピチカート・ファイヴも聴いていきたいと思っているので

 

 メンバーの中心であるクロネコ氏に息子がいて、彼には自分の活動を明かしていないというのもいい話だなとなりました。僕がまだ曲をちゃんと訊けてないというか、曲名を見てもぱっとこの曲だ~とはならないものが多かったのでもっと聴いていきたい。

 

 

 

 


伴名練「なめらかな世界と、その敵」


 SFの短編集。面白い小説を地で行っている作品だと感じました。長さや質量で圧倒するとか、すごい変な文体とかそういうものはない。しかし各話綺麗にまとまっていて、かつ意欲的な試みや奇妙な設定があり、それでも読みやすいという全て質が高い作品集でした。異様な世界でつながろうとするふたりの話というのが通底しているな~と思っていたら解説でぜんぶ言われてました。

 

表題作…特に終盤の描写など、小説でしかできないような、紙の上でしかできないSFをやってると感じた。奇妙だけど豊かな描写が面白い。例えば主人公が川の向こうに行こうとするシーンは、SF的設定とその世界でしか生じない感傷を結び付けてるようで上手い。トランプを使って物語の核となる問題を示しつつ、作品自体の設定をさらっと説明してしまう描写も感動した。

 

ゼロ年代の臨界点…ところどころ笑った。上品なジョークというか、元ネタがあるのか分からなかった。

 

美亜羽へ送る拳銃…ところどころハーモニーへのリスペクトがあり、しかしオリジナリティーのある面白い話になっていて凄い。二転三転する物語の展開も意表を突いて飽きず、それでも脳や感情を改変できるようになった世界とそれをめぐる哲学的ともいえる問題が示されている。

 

ホーリーアイアンメイデン書簡体小説のだんだん真相が見えてくる感じとか、ちょっと古い時代を舞台にしたSFがすきなのでよかった。この本では1、2位を争うレベルで好きだったかも。

 

シンギュラリティ・ソヴィエト…いきなり日本ではない未来の世界が舞台になり、会話がいちいちSFっぽくてかっこよかった。

 

ひかりより速く、ゆるやかに…新幹線の時が止まるという問題は少しシュールさがあるなと思いつつ、それが現実の社会でも起こっている問題と連関していくようで面白かった(SNSや物語での消費など)。最後すっきりと解決したのはよかったのだけど、結局伯父さんは犠牲になったままでなんとなくすっきり終わりすぎている感も抱いてしまった。

 

 全体的にお話を作るのが上手すぎる。よかったです。

 

 

 

 


柞刈湯葉「人間たちの話」


 同じくSFの短編集。これは去年読んだ扱いだったのだけど、最後のほうの数編をなかなか読んでいなかった。読んだのでいま読了した判定にします。

 

 緻密で濃厚というより、軽く楽しめるシュールなSF詰め合わせという印象でした。あとは作者のTwitterを感じさせるような言い回しというか、冷ややかな視点みたいなのもあってよかったです。

 

 「冬の時代」については前の日記で書いていた。感想が浅い!

 

 ほとんどが凍り付いた未来の日本をひたすら南下していく2人を描いた作品だが、切なさもありつつこの作者ならではだと思われる、ユーモアのある文章があって軽妙でよかった。SFを読んだ経験は浅いが、こういう特に短編は特に大きな展開があるわけではなく、ある状況下の日常を徒然と描く…そしてそこに凄味がある、みたいなものが多い気がする。

 

 「宇宙ラーメン重油味」は銀河系にあるラーメン屋の話なのだけど、こことかトンデモすぎて笑ってしまった。スケールが大きすぎるのだけど、なんとか分かるような分からないような。

 

 貨物船は船といっても小惑星と同程度のサイズがあるため、互いが互いを周回して連星系をなす形になる。さらに巨大生物のそれ自体による重力が加わると、小惑星・貨物船・巨大生物が三体運動によって鍋の周囲を運動しはじめた。
 おかげで巨大なドンブリの中身はカオス系の重力によって乱雑に攪拌され、太さ50センチ、長さ数キロに及ぶ麵の均一な加熱が可能となった。なお天体の三体運動は軌道が不安定なので長期的な周回はできず、やがて貨物船は太陽方向に向かって高速で射出され、帰還の燃料を節約したとのことである。

 

 面白かったです。

 

 

 

 

 

 これを見ると分かるように本当にミステリを読んでないんですね。興味が散逸している。同志少女はアガサクリスティー賞なんですけど、ミステリではない…。いちおう推理短篇としては、図書館で井上真偽「青い告白」、泡坂妻夫「球形の楽園」を読んだりはしたのだけど…。前者は推理作家協会賞候補になった短篇で緻密、後者は傑作として挙げられる大御所の作品で大胆、どちらも面白い短篇でした。

 

 あ~かなり長くなって疲れた。次に読書日記を書くときは推理小説を書けるようにしたいです。おやすみなさい。