nikki_20220331「電球奇譚」

 

 午前は家で事務的な作業をし、午後から電球を買いに行った。私はこの数か月で3回家電量販店に行き、今回その3回目にしてやっと「正しく」電球を付け替えることに成功した――その顛末を以下に記す。

 

 話は今年の1月頃に遡る。ある日、玄関の電球が点かなくなった。そこまで生活に支障がでるわけではないため放置していたが、玄関が暗いとそこにおいてある物も見づらく、じめじめした雰囲気になってしまう。切れてから数週間後、電球を交換することにした。現在の部屋において電球が切れたのは初めてのことだった。玄関のそれを外してみるとぽろり、とソケットの金具以外の部分だけが抜けてしまった。電球を試みに振ってみる。カラカラ、と音がして中身が焼き切れたのだと分かった。接合部分に取り残された金具は摘出するのに苦労した。鋏を開いて差し込み、回転させることで取り出せた。以上のことから、それなりに長い間耐えてきた電球だと分かる。あとはこれを家電量販店に持参し、照合して同じ型の電球を買うだけだった。これが1度目の来店である。

 

 そうして持ち帰った電球を試みに嵌めてみると、見事に点灯した。これで薄暗い玄関は明るくなり、生活の質が向上したのだった。しかし、1週間後に突如として電球は点かなくなったのである。その瞬間は明確だった。付けっぱなしにしていた玄関の電球が日に日に暗くなり、しまいには不規則に点滅、そして消滅。玄関には何かが焦げたような匂いが充満した。これは再び点けると危険だと判断し、電球はその後また数週間放置された。

 

 2度目の来店をし、電球が切れた件を報告する。電球自体はLEDでもなく安いため、そこまで怒りもなかった。数人の店員を介する事態となり、持ってきた最初の電球、次の電球が正常に作動するかを確かめる作業などが行われた。確認の結果、最初に切れた電球は当然として、次に買った電球も切れていた。専門の店員には、ランプ自体に表記されているワット数と電球の規格が違う可能性を指摘された。その日に勘で電球を買って帰ってもよかったのだが、慎重に家で確認することにして帰る。ただ単に家電量販店に相談をして帰るだけになってしまった。

 

 もう顛末は分かるであろう、3回目の来店を3/31にして無事に電球は治ったのだった。店員の指摘は正しく、ランプの要求するワット数と電球の必要とするワット数が違ったのである。正しい電球を買った。都合上いままでの2回とは異なる家電量販店であり、古い電球2つを持っているのに頑なに見せようとせず、「最初の電球が切れて、それを買い換えても駄目で、家の規格を確かめたら…」と説明する私に店員は訝しげな視線を向けてきたが、語り終えると事情を理解して案内をしてくれた。

 

 しかし、ここでひとつ疑問が残る。これでいくと最初の電球はランプのワット数と異なる規格のはずなのに、ずっと点いていたのである。私が入居してからずっと点いていたのに、いちども不具合をきたしていなかった。ランプの要求するワット数よりも電球のワット数のほうが大きいという食い違い方をしていたのだが、それで何もなかったのは奇跡のようなことである。2個めの電球がすぐに消えたのは正しい反応であり、そもそもの電球がおかしかったことになる。以前の住民が誤って取り付けた可能性があり、その誰かのせいで私はこうして3回も家電量販店へ訪問することになってしまった。家電量販店を眺めるのは好きだし、そこまで悪くもない災難ではあるけど。

 

 いま私の玄関は煌々と輝き、明るい気持ちで家を出入りできる。おそらく次の住民が来るまで切れることはないだろうが、彼/女がこの電球にそのような顛末があったことを知る由はないのだろう。過去の住民が残したまだ知らない何かがこの部屋にあるのかもしれないし、そして私が気づかぬうちにのこす何らかの痕跡も、次の住民に継がれるのだろう。おやすみなさい。

 

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