スプーナリズム小論

 

 

1 スプーナリズムとは

 スプーナリズムというものがある。言葉遊びの一種であり、別名を語音転換、頭音転換ともいう。

 

ランドセル→センドラル
れいぞうこ→れこぞうい

 

 このように単語の音を入れ替えて遊ぶものである。以下は再現だが、こんな文字の後ろに鳩の画像があるものを見たことがあるかもしれない。これはスプーナリズムであり、インターネット上で多く見られる。「ゴツゴツのアハン」「こきたてヒーヒー」等で画像検索するとたくさんの例を見ることができる。

 

はとポッポ → ぽとハッハ

 

gyazo.com

フォントは5000兆円ジェネレーター superにて筆者が製作

 

 Twitterでは画像で表現するだけに留まらず、スプーナリズムをツイートする人が多い。少し思いついた単語を検索してみると既に呟かれていることが多々ある。こうしてバズることもまれにある。

 

チキチキバンバン

チとバを変えると

バキバキチンt

— 夏色まつり🏮新曲「ラヴレター」リリース✨ (@natsuiromatsuri) 2022年8月18日

 

 

gyazo.comNeru「ロストワンの号哭」の歌詞「おいどうすんだよ」を入れ替えている。

 

 かく言う私もTwitterを続ける中で知って以降、よく呟いている。ところでこのスプーナリズムについて、起源などはあっても、方法について体系的にまとめている人はあまりいなかった。本稿では日本語におけるスプーナリズムの方法や特徴について整理してみることを目的をする。なお筆者は言語学には全く詳しくない素人のため、モーラなどに触れるような踏み入った議論はできない。ご了承ください。

 

2 スプーナリズムの起源と定義について

 起源や広まった経緯はwikipediaに詳しくまとまっているため基本的にはそちらへ任せたい。一応そこへ頼らないソースで調べることも試したため、その結果をまとめる。

 

2-1 起源について

 起源に立ち返ると、W.A.スプーナーという人物の言い間違いが起源となっていることが分かる。

 

n. 頭音転換:2つ以上の語の頭音または他の音を,普通は偶然に誤って転換すること
[1900. そのような言い誤りをしばしばしたことで有名な英国の牧師 W.A.Spooner(1844-1930)の名にちなむ]

"spoon・er・ism", 小学館 ランダムハウス英和大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2022-09-13)

 

語頭転換の一種。オクスフォード大学のニュー・カレッジの学寮長だったW. A.スプーナーに由来する。2つの単語の(特に語頭の)子音を入れ換えてしまう言い誤り。

"スプーナリズム", デジタル版 集英社世界文学大事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2022-09-13)

 

 上に述べた定義は「誤って転換すること」「言い誤り」をスプーナリズムと呼んでいる。『現代心理学事典』によると「認知過程に基づくヒューマンエラーの分類の1つ」である「スリップ」という現象のなかのひとつとされている。これはwikipediaで参照されていたものだが、愛知大学の安藤聡は「スプーナリズムの面白さは, 語頭の子音や音節が入れ替わることによって, 偶然別な意味になってしまうことがあるという点にある。」と述べている。以上のように偶然に間違えることがスプーナリズムにおいては重要であると分かる。

"スリップ", 有斐閣 現代心理学辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2022-09-13)
安藤聡「スプーナーとスプーナリズム」『語研ニュース』第12巻、愛知大学名古屋語学教育研究室、2004年

 

 今ではその定義は変化している。偶然・間違いというニュアンスは省かれて、「転換すること」のみを指す語として「スプーナリズム」は使われることが多い。上にあげた安藤の文章では、言い間違えの多いスプーナー氏に関する伝説が多数作られたとある。そうして面白い言い間違いを創作するうちに、言葉遊びとして定着したと推測される。そうして、いまでも意図的に間違える言葉遊びとなっている。以降では言葉遊びの意で「スプーナリズム」を使用していく。

 

2-2 アナグラムとの相違について

 アナグラム、という言葉遊びがある。これは文字を並べ替えるものであり、スプーナリズムと似た概念である。具体例を用いて説明する。例えば「ランドセル」を「ドンラルセ」とするのはアナグラムである。もとの言葉の文字をばらばらに並び替えている。一方で冒頭にあげた「センドラル」は「ラ」と「セ」の位置が入れ換わっているのみで、他の「ンド」「ル」の位置は変化していない。これはスプーナリズムといえる。

 

ランドセル → ドンラルセ(アナグラム

ランドセル → センドラル(スプーナリズム)

 

 スプーナリズムはアナグラムの一種、スプーナリズム⊂アナグラムという関係が成り立つといえる。両者の差についてはニコニコ大百科に以下のようにある。

 

どこからどこまでがスプーナリズムかというものは定まっていないが、元の文字だけを使い(新しい文字を追加せず)、かつ元の語感があまり残っていないほど改変されている場合はアナグラムと呼ばれることが多い。

 

 スプーナリズムとアナグラムの境界は定まっていないが、本稿ではまず「2箇所のみを入れ替えている」ことをスプーナリズムとしてみたい。そこに具体的な根拠はなく、厳密で狭い定義である。このあたりについては述べていくうちに分かるため、ひとまず本記事では以下のように定義する。

 

スプーナリズムとは、ある言葉の2箇所のみを入れ替える言葉遊びのことである。

 

ランドセル → センドラル ○(セ、ラの2箇所を入れ替えているため)

ランドセル → ランセルド ×(ド、セ、ルの3箇所を入れ替えているため)

はとポッポ → ぽとハッハ ×(は、ポ、ポ、の3箇所を入れ替えているため)


3 対象となる言葉について

 具体的な議論に入るが、細かなルールを作ったり確認することを目的としてはいない。ルールはない。基本的にどんな言葉のどの場所を入れ換えてもよい。ここでは主観的な傾向であったり特徴を整理してみることで、見えてくるものがあるのではないかという試みになる。

 

 本項では入れ換える対象、素材となる言葉の特徴についてざっくり分けて考える。

 

3-1 1単語

 最もポピュラーなものだと思われる。物の名前、人名や地名などの固有名詞が該当する。ただし固有名詞のうち作品タイトルなどは1単語で無い場合が多いので別になる。例えば「アルマゲドン」は固有名詞かつ1単語だが、「三丁目の夕日」「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」は固有名詞でも1単語とは異なる。

 

 「むらさき」「ランドセル」「チョコレート」はそれ以上分割できないが、「自転車」「キッチンタイマー」「プリンアラモード」などはさらに細かい単語へ分割できる。複数の単語が組み合わさっているほうが入れ替えやすい。なぜなら2の起源の項の引用部分で触れられているが、語の頭音を入れ替えるケースが多いからである。それ以上分割できない単語には、頭音がひとつしか見出せない。そうでない単語の方がやりやすく、ゆえに多く見られる。

 

観光大使 → たんこうかいし

キッチンタイマー → タッチンキイマ―

アルマゲドン → マルアゲドン

ハリー・ポッター → ポリー・ハッター

 

3-2 修飾語+単語

 単語を形容詞などで修飾している場合。以下の「パラパラ」のようにオノマトペが入っていると面白い語感になるため、よく見るように思う。冒頭に挙げた「ぽとハッハ」もそれに該当するだろう。有名な「ゴツゴツのアハン」もそうである。

アツアツのゴハン → ゴツゴツのアハン

パラパラのチャーハン → チャラチャラのパーハン

 

 

3-3 それ以外

ことわざ・キャッチコピー、歌詞、作品タイトル、自作の文章などが考えられる。

 

猿も木から落ちる → キルもサから落ちる

ご注文はうさぎですか? → うちゅうもんはごさぎですか?

 

4 入れ替えの方法について

 ここからは入れ替えの例とその美しさについて考える。繰り返すがルールはない。ただそうしていると何も考えられないため、ひとつの基準を設定する。「元の言葉が容易に想像できるか」である。入れ替える前の言葉と入れ替えた後のギャップや滑稽さを楽しむのがスプーナリズムの醍醐味だと筆者は考えている。できるだけ元の単語が分かるほうが「美しい」として進める。

 

4-1 入れ替える場所について

 

4-1-1 頭音転換

 先述したように頭の音を入れ替える場合が多い。これは自然に起こりやすいうえに、元の単語が用意に想像しやすい。たとえば「プリンアラモード」を入れ替えるならば「アリンプラモード」である。逆に「ルーテンレーカ」を見ても、すぐに「カーテンレール」のことだとは分かりにくいのではないだろうか。これは「カーテンレール」の「カ」「ル」を入れ替えたもので、「カーテン」「レール」の頭の音ではない。頭音転換ならば「レーテンカール」になる。

 

プリンアラモード → アリンプラモード(分かり易い)

カーテンレール → レーテンカール(分かり易い)

カーテンレール → ルーテンレーカ(頭音転換でなく、分かりにくい)

 

 

4-1-2 頭音転換でないもの

 頭音転換でないスプーナリズムは分かりくくなる傾向にある。自然な言い間違いでは出てこないような人工的なものであり、考えるのも頭音よりも少し時間がかかる。ゆえに少ない。美しさも頭音に比べてわずかに劣ってしまう。先の「ルーテンレーカ」もそうである。例えば「吹奏楽部(すいそうがくぶ)」を見たときに「くいそうがすぶ」と入れ替えようとはすぐには思わないだろう。

 

吹奏楽部→くいそうがすぶ(分かりにくい)

 

 頭音転換でないもののうち、筆者が個人的によく行うものとしてはふたつある。これ以外だと「くいそうがすぶ」のようになるため、あまり思いつきにくい。

 

a 最初と最後を入れ替える

 「ルーテンレーカ」のように、どんな長さでも最初と最後の文字を入れ替える。中の部分は残るので元が分かりやすい。

 

ロールケーキ → キールケーロ

 

b 隣同士の音を入れ替える

 「アメリカ」を「アリメカ」にするようなもの。「メリ」という隣り合った音を入れ替えている。変化する箇所が局所的なため全体の語感は変わらなくて分かりやすい。

 

アメリカ → アリメカ

 

 このふたつは頭音ではない方法で、かつ美しさを損いにくいのではないかと思う。しかしそれはこの方法を知っているからであり、いわば暗号解読のカギを知っているからすぐに解けるみたいなものだ。全く慣れない人からすると頭音転換が圧倒的に分かり易いのは言うまでもない。

 

4-2 長音

 伸ばし棒は入れ替えの対象になるかを考える。例えば「ワークマン」という単語の「ー」「マ」を入れ替えると「ワマクーン」となる。これは頭音転換でないので分かりにくい。このように長音は語頭には来ないため、入れ替えると分かりにくくなる。

 

ワークマン → ワマクーン

 

 もうひとつの論点として、長音を母音として使ってよいかというものがある。これはいわばしりとりで「スキー」と言ったあと「イ」から始めてよいか、という話と同じである。「スキー場」の「キ」「ー」を入れ替えるとして、「すーきじょう」か「すいきじょう」のどちらだろうか。長音は直前にある音の母音を引き継ぐという性質上、入れ替えると音が変化してしまう。音を保持して入れ替えるという点では「すいきじょう」の方が正しく、字面だけを維持するならば「すーきじょう」になる。どちらが美しいかは微妙なところだが、個人的には音を維持した方が元の単語は分かり易いように感じる。

 

スキー場 → すいきじょう(音を維持)

スキー場 → すーきじょう(字面を維持)

 

 また後述するが、「ティータイム」を入れ替えるときに「ー」と「イ」を同じ音として見なしていいのかという問題にも繋がりうる。ここでは元の単語の分かりやすさを優先するか・音を入れ替える定義に即するかというジレンマがある。答えは出せないが、このように定義や基準を作っても例外が生じうるということである。

 

4-3 促音

 促音は入れ替えの対象になるかを考える。結論としてこれも長音と同じで、語頭には来ないため、入れ替えると分かりにくくなる。例えば「ポテトチップス」の「テ」「ッ」を入れ替えると「ポットチテプス」になる。「ポット」という言葉が生まれる面白さはあるが、分かりにくくもあるだろう。

 

ポテトチップス → ポットチテプス(分かりにくい)

 

 では促音を「ツ」として捉えなおす試みはどうだろうか。促音とtuは異なる音のため、音を入れ替えるという定義には反するうえに元の単語がさらに分かりにくく美しくはない。「ポテトチップス」は「ポツトチテプス」に、「ポップコーン」は「ポープコツン」になりうる。

 

ポテトチップス → ポツトチテプス(さらに分かりにくい)

ポップコーン → ポープコツン(分かりにくい)

 

4-4 拗音

 「しゃ」「ちょ」のような拗音は入れ替えの対象になるかを考える。「sya」「tyo」でひとつの音のため、「チャイナドレス」は「ドイナチャレス」のようになる。ここで「チヤ」であると捉えて「チドイナヤレス」とするのは定義にも反するうえ、あまり美しくない。また「チヤ」の「チ」を入れ替えて「スヤイナドレチ」とするのも微妙である。拗音は分解しない方がよい。

 

チャイナドレス → ドイナチャレス

 

4-5 濁音

 濁音は濁点まで含めてひとつである。「東京大学」を頭音で入れ替えると「だうきょうといがく」になる。字面だけ見て濁音の位置はそのままにするという考え方もありうる。以下に平仮名で書いたものを見れば分かると思う。この方法はあまり美しくはないだろう。

 

東京大学 → だうきょうといがく(分かり易い)

とうきょうた゛いがく → たうきょうと゛いがく(分かりにくい)

 

4-6 音が重複している場合

 1つの単語内に同じ音が複数ある場合について。かなり有名な例だと「こきたてヒーヒー」がある。スプーナリズムを指す言葉としてハッシュタグなどで用いられてきた。これは「ひきたてコーヒー」を頭音転換したものである。しかし音を入れ替えるのであれば、2つの「ひ」が対象になるのではないかという考え方もある。つまりは「ひ」「こ」を反転させて「こきたてヒーコー」のように。こうするとちょっと美しくなくなる。

 

 そもそもこの文章におけるスプーナリズムの定義「2箇所のみを入れ替えている」で考えてみても、重複する音を対象にすると3箇所以上を入れ替えることになりあまりよろしくはない。極端な話「志布志市志布志町(しふしししふしちょう)」という鹿児島の地名ならば「し」「ふ」を反転させて「ふしふふふしふちょう」とするようなものである。

 

 しかし、である。「ゴツゴツのアハン」は重複する3箇所の音を入れ替えている。「アツアツのゴハン」における「ア」「ゴ」が反転した形である。それでも元の単語が分かりやすく、美しいといえるだろう。これは「アツアツ」というふうに同じ音が連続しているからだ。対して「ひきたてコーヒー」は「ひ」が離れており、2つの「ひ」を入れ替えた「こきたてヒーコー」は分かりにくい。重複する2箇所以上を入れ替えることを「重複音転換」、2箇所のみの入れ替えは「スプーナリズム」として整理すると以下のようになる。○と×は美しさの度合いである。

 

アツアツのゴハン
→①ゴツゴツのアハン(重複音転換)
→②ゴツアツのアハン・アツゴツのアハン(スプーナリズム)

 

ひきたてコーヒー
→③こきたてヒーコー(重複音転換)
→④こきたてヒーヒー・ひきたてヒーコー(スプーナリズム)

 

 

gyazo.com

 

 「アツアツのゴハン」型としては「きらきら星」→「ぼらぼらきし」であったり、最初にあげた「パラパラのチャーハン」→「チャラチャラのパーハン」が該当する。3-2において「オノマトペが入っていると面白い語感になるため、よく見るように思う」と書いたが、オノマトペは同音が連続するためこの重複になる場合が多い。そして連続する音が面白い語感を生み出している。

 

きらきら星 → ぼらぼらきし

 

 「ひきたてコーヒー」型も多い。「トランペット」などの1単語に同音があるものも、「黒い靴」のような修飾語もたくさんある。この場合、スプーナリズムで入れ替えたあとに同音が連続するようにすると語感がよくなって面白い。「黒い靴」→「つろいくく」、「トランペット」→「ペラントット」など。逆に「ひきたてコーヒー」型で重複音転換を行うと、入れ替えた後に同音の連続が生じない。ゆえに語感も悪く、元の単語も分かりにくくなり美しさが損なわれる。

 

黒い靴 → つろいくく

トランペット → ペラントット

 

 また「上場企業」「高等学校」「コーヒーメーカー」のように母音や長音は特に重複しやすい。これを同じ音と見なすかなどを考えると複雑になっていくが、基本的に元の単語が分かりにくくなって美しさは損なわれる傾向にある。

 

 なお「こきたてヒーヒー」でGoogle検索すると以下のツイートがヒットした。筆者ははアカウントのことを知らなかったが、区切りの音節の頭が基本で、重複の扱いは自由というルールも存在したようである。

 

#こきたてヒーヒー
こきヒー氏のアカウントが消えたので、ルールをば。
基本的に、言葉の区切りの音節同士を入れ替える。

〇こきたてヒーヒー
×ひこたてキーヒー

入れ替える音が反復する場合は、自由。

例:
〇ゴツゴツのアハン
〇ゴツアツのアハン

— きろゆ (@kiroyu_) 2020年12月26日

 

 

4-7 3箇所以上の音を入れ替える場合

 2-2で述べたアナグラムとの相違についてである。このパターンは本記事におけるスプーナリズムの「2箇所のみを入れ替える」という狭い定義に反する。しかし「ゴツゴツのアハン」でも確認したように例外はたくさん存在する。それらを整理する。

 

4-7-1 重複

 先述した重複の場合、3箇所以上を入れ替えることがある。

 

4-7-2 重複以外の複数箇所

 「トリケラトプス」の「リ」「ラ」「プ」をそれぞれ入れ替えて「トラケプトリス」とするようなもの。考えてみると分かるが、3つをそれぞれ異なる位置に入れ替えるため頭を使ううえ、美しくはない。もちろん3つ、4つと増やせるがますますアナグラムになっていく。スプーナリズムを複数回繰り返すと考えれば分かり易い。

 

トリケラトプス
→トケリラトプス(まず「リ」「ケ」を入れ替え)
→トケリラスプト(次に「ト」「ス」を入れ替え)
→……

 

 元の単語における音と箇所が一致しているものがひとつもない場合は完全にアナグラム、それ以外はスプーナリズムの範疇という考え方もできるかもしれない。例えば「アメリカ」を単純に逆から読んで「カリメア」としたり「メアカリ」とすると、元に「ア」があったところに「ア」はないし、「メ」があったところに……という関係が全てにおいて成り立つ。一方で「アカリメ」はまだ最初の文字が「ア」という点で「アメリカ」の形を残している。そのように考えることもできる。

 

アメリカ → カリメア、メアカリ、アカリメ

 

4-7-3 隣り合ったまとまりで入れ替える場合

 

a 音節や漢字で入れ替える場合

 4-5で「東京大学」を「だうきょうといがく」としたとき「だいきょうとうがく」の方が自然だという違和感があったかもしれない。「だいきょうとうがく」は「東京大学」の「東」「大」を入れ替えている。それだけでなく、「とう」「だい」がひとつの音節であるゆえにこちらのほうが自然である。このように音節や漢字で入れ替える場合、2箇所以上を入れ替えているが美しいという状態になる。そしてこのパターンは自然ゆえとても多い。

 

東京大学 → だいきょうとうがく

嶺上開花 → かいしゃんりんほう

 

b 音節以外で入れ替える場合

 音節以外でもまとまりで入れ替えることがある。例えば単語単位である。「君の知らない物語」を「物語の知らない君」にする。あるいは「東京オリンピック」を「オリン東京ピック」にするようにあまり必然性のない入れ替えもありうる。

 

君の知らない物語 → 物語の知らない君

東京オリンピック → オリン東京ピック

 

 この項は長くなったが以上である。ここでは入れ替えにおける方法を検討し、「2箇所のみを入れ替える」という本稿での定義では例外となるものが多く生じうること、パターンが多くあることを確認した。そしてここで検討した要素は複雑に絡みあう。たとえば「シャープペンシル」は拗音、長音、重複を含むように、さまざまな入れ替えが考えうる。ではこれらひとつの単語における複数の可能性のうち、どのようなものが選択されやすいのだろうか。私はひとつの基準として元の単語が分かり易い「美しさ」を挙げたが、さらに基準は考え得る。これらについて次項で検討していく。

 

5 入れ替えることによって生じる効果について

 入れ替えることによって効果が生じうる。これまで分かり易くするため入れ替えた後の単語はひらがな・カタカナで書いてきたが、漢字を用いたりと表記を変えることが多い。それは入れ替えた後の単語に効果が生じているからだ。その効果について検討する。

 

5-1 意味が変化する場合

 入れ替えた後の単語に新しい単語が生じ、違う意味が見えてくることがある。「きらきら星」→「ぼらぼらきし」ならば「岸」や「騎士」が出現し、「ぼらぼら」はよく分からないが場所や人のように見える。あるいは完全に違う文が出てくることもある。anNina「対象a」の歌詞にある「あなたの亡骸に土をかける」→「あなたの亡骸に価値をつける」など。

 

きらきら星 → ぼらぼら騎士、ぼらぼら岸

あなたの亡骸に土をかける → あなたの亡骸に価値をつける

海を見る人 → 耳を売る人

母の日、父の日 → ヒヒの歯、ヒヒの血

「海を見る人」は小林泰三による短編小説のタイトル。

 

 なお文春オンラインに全2回にわたって連載された2015年の記事「腹筋崩壊!スプーナリズム」は「入れ替えた結果意図せずに何らかの言葉が生まれてしまったパターン」が複数挙げられている。この記事はパ行に着目する、などスプーナリズムについて独自の方法論や美学が描かれており興味深い。

 

gyazo.com

 

bunshun.jp

 

5-2 意味が変化しない場合

5-2-1 語自体が変化しない場合

 「トマト」の「ト」を同士を入れ替えても「トマト」は変わらない。あるいは「耳」「母」のような同音のみで構成される単語はどう入れ替えても単語は変わらない。このような場合。

 

トマト → トマト

 

5-2-2 それ以外

 音は入れ替わるが、意味はあまり変わらない場合。そもそも言葉が変わるのでかなりレアケースである。例えば「あっちこっち」を「こっちあっち」としてもあまり意味は変わらない。

 

あっちこっち → こっちあっち

 

5-3 意味が消失する場合

 これまでの例のほとんどはこれであろう。「チャラチャラのパーハン」の「チャラチャラ」「パーハン」も何のことかはよく分からないが面白い。あるいは例えば「アンソロジー」を入れ替えた「ジンソロアー」も何かの鳴き声のようでよく分からない。意味が通ることはあまり多くなく、意味不明な文字列になるが響きが面白いというケースが大半だろう。そして、鳴き声っぽいから元はひらがなだったけどカタカナにしてみよう、人名っぽいから元は漢字だったけどひらがなにしてみよう、などの表記の変換が起こる。

 

アンソロジー → ジンソロアー

 

 ここでは入れ替えによって生じうる効果について述べた。4でいくつか方法について述べたが、基本的にはこれら効果のほうへ圧倒的に重きが置かれている。「こきたてヒーヒー」も、「ヒーヒー」という響きが優先された故の結果である。いくつかの入れ替え結果があり取捨選択に効果が用いられるというより、入れ替えた後の単語を面白くするために方法のほうを合わせるようなものも多い。冒頭で述べたように画像検索をすると例がたくさん出るため分かり易いだろう。

 

 画像の有無も影響が大きい。フォントと共に画像がある場合、元の単語との結びつきを想像することが容易になる。ゆえに多少無理があるような入れ替えでも、元単語とのギャップを味わうことができる。一方でTwitterでラフに呟かれるスプーナリズムは文字だけである。ゆえに無理のある入れ替えは元単語を想起させにくい。例えば先述の検索結果にあった「コツコツのアアア」であるが、この文字列だけをTwitterで見てもよく分からないだろう。後ろにココアの画像があって初めてそういうことかと腑に落ちる人が多いのではないだろうか。このように共有される場所や方法においても効果や方法に揺らぎがある。

 

 以上で具体的な議論については終わる。最後におまけのようなものを述べる。

 

6 実用例

 言葉遊びは身近なもので、広告だったりフィクションの中でもよく見かける。最近は謎解きが娯楽のひとつとして広まっているゆえ、アナグラムに馴染みのある人も多いであろう。スプーナリズムもその例に漏れない。例えばゲーム『グランブルーファンタジー』は、2021年の広告において「もらえる」を「もえらる」とわざと表記することで話題性を誘発しようとした。

 

togetter.com

gyazo.com

 

 

 「ホットドッグ」を入れ替えて店名にしている店や、「登校拒否」を「とうきょうこひ」と入れ替えたところから命名した「トーキョーコーヒー」という動きもある。

 

tabelog.com

 

tkcf.eft-art.jp

 

 また、2022年に東急ハンズが「ゴリラゲイ雨」とツイートしたことで炎上した案件も記憶に新しい。スプーナリズムが身近なものなのは一方では事実だが、あくまで意味を持つ言葉であることを忘れないでいる必要がある。

 

最近好きだったイラストレーション。

 

ファミチキ → ファミきち

 

アニメ『少女終末旅行』公式設定資料集における誤植。

 

記録しておくんだよ → 記録しておくだんよ

 

7 おわりに

 ここまでスプーナリズムについていくつかの観点から述べて整理をした。「スプーナリズムとは、ある言葉の2箇所のみを入れ替える言葉遊びのことである。」という厳密な定義を軸にして考えたが、例外は多く、入れ替える箇所は様々である。アナグラムとの相違を定義するのが難しいのもその通りであろう。

 

 言葉遊びの面白いところは、新しい単語が出て来る限りは無限に続くということである。今は入れ替えたあとでも意味を持たなかった文字列が、流行語や新語の登場で意味を持つようになるというケースはあり得る。そうでなくても新しい言葉を入れ替えたら既存の言葉になることもある。今後どのように開かれていくかは分からないが、スプーナリズムはその素朴さゆえに長く言葉の側にあるのではないかと思う。あくまで筆者が観測している限りの主観によって書いたものではあるが、何かしらのアーカイブとしての役割を果たすことができたらよいのかもしれない。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。