nikki_20241020「江國香織『すいかの匂い』 など」

 

鑑賞した時系列は前後するけどいくつかの読書についての感想です

 

十階堂一系『赤村崎葵子の分析はデタラメ』

 

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去年くらいに読んだのだけど感想を書いてなかったのでほとんど内容を忘れている。名前を聞いたことがなかったが面白いと言っているミステリ好きの人を見たので読んだ。「新感覚日常分析系ストーリー」でありミステリを自称してはいないが、体裁は確かにそうだし、同じ著者は別のところからミステリを出してはいる。日常ミステリでありながらも信頼できない語り手であり、まだ分析されていない真相があるかもよ?という余地がたくさん残るのはなるほど読んだこと無かったタイプではある。しかしそれは作者が詰めの甘さを誤魔化しているのと区別がつかないというか、どこまで意図されているのか区別がつかなくてよくわからなかった、という感じの感想だったと思う、おそらく。続編も買ったのでまとめて感想を書こうとして、最初の巻だけ読んで終わったのだった。まとめて読んだ時に書いた方がよさそう。あとラノベって初めて読んだかも!せいぜい挿絵を立ち読みするくらいしかしたことなかった。

 

江國香織『すいかの匂い』

 

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積んでいたけど夏なので読んでおきたいと思った。「11人の少女の、かけがえのない夏の記憶の物語。」というあらすじから甘酸っぱい青春物語を想像していたけれど冒頭の表題作から上半身を共有した男の子とすいかを食べる話で、ぜんぜんそうではなくて面食らった。でもよかった。江國香織といえば小学生くらいのときに父の本棚にあった『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』からいくつか拾い読みしたのだけど、そういえばこういう作家だったな、と思い出したのだった。翳がある。

 

ほとんど少女を語り手にした11の短編が収められているが、新幹線の車内で見知らぬ女性に誘拐されるかを迷う「あげは蝶」や、「ちょっとパンツをおろしてみて」と新聞配達員から言われるシーンのある「はるかちゃん」、物を盗んでは学校の裏にある焼却炉に棄てていた少女が教育実習生への思いから最後に彼をナイフで軽く切りつける「焼却炉」など、到底甘酸っぱいとは言い難い話ばかりである。もちろん「ジャミパン」のような暗くない話もある。一番好きだったのは「弟」で、葬式を控えた家の様子と過去に弟としていた「葬式ごっこ」の記憶が交互に綴られる。直接的ではないけれど薄く死の雰囲気がずっとしている奇妙さがよい。

 

しかし語られる夏の雰囲気はとても共感できてありありと浮かぶものばかりだし、そういう風景に感じる愛しさを追体験できる。解説でも触れられているが文章の良さもあるし、幼い少女の視点から描いていることもある。テンプレート的な光景だと処理するのではなく、童心のままに感じられる世界の新鮮さと得体の知れない不穏さ。他者の悪意や自らの行為が悪いものだということに鈍感な部分もそのままに描かれている。夏の暑さがそういう不穏さと重なる解釈を見せてくれる短編集である。「ほとんど少女を語り手にした」と先述したのはふたつほど理由があり、ひとつはそうでない現在と過去を行き来する短編もあるから、もうひとつ、すべて過去形の文体で綴られているからである。回顧する形で物語は語られるが、そこに今思えばあれは悪かった、などの視点は介在しない。語りと夏の空気に呑み込まれる理由はそこにもあったと思う。

 

いじめられていた語り手が海辺の町で知らない少女と交流する「薔薇のアーチ」では、いじめは何も解決せず海辺での会話だけが綴られて「私は小学校を卒業するまでいじめられ続けた。」と締めくくられる。これ以外にも見知らぬ他人と出会うが、特に大きな変化はなくそのまま引っ越してしまった、でも憶えているみたいな話がいくつかある。別に他人と出会ったからといって必ずしも大きな変化があるわけではない、という当たり前の現実をそのまま描いてくれたことがうれしい。

 

現実を描いてリアリティを感じることについて、ちょっと話は逸れるのだけど、最近「事実は小説より奇なり」ということについて考えていた。うまく言えないが、フィクションが現実っぽいと感じられるのは、むしろ現実っぽくないときなのでは?というようなことである。もとの文言は現実ですごい事件などが起きたことに言われることだけど、もっと身近なレベルでもそうだと思う。現実の日常で出会うエピソードもたいがいちょっと変である。たとえば食品工場でたまに働いている人が、交通量調査に行ったときに山奥でシカと一瞬目があったということがある。これは自分の話だけどフィクションもこれくらいのおかしさがあったほうがむしろ現実っぽいわけで、なにからなにまで平凡であるというのはむしろ嘘っぽい。考えてみれば当たり前かもしれないが……『すいかの匂い』に限らず前に三浦哲郎『拳銃と十二の短編』を読んだ時も思ったけれど、こういう平凡さをちょっとはみ出たディティールみたいなのが結構好きだし、それが逆説的にリアリティを出しているみたいなことをこれを読んだときにも考えた。

 

詠坂雄二『インサート・コイン(ズ)』

 

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ゲームを題材にした青春ミステリ短編集。どうでもいいけど26歳で駆け出しのゲームライターが主人公なので「青春ミステリ」と題されているのはちょっと意外だった、学生じゃなくても青春ミステリって銘打っていいんだみたいな。

 

収録作「残響ばよえ~ん」の評価が高いとのことで読んだ。全体を通してミステリにある意外性みたいなのはあまりなくて、解説でも最もそれっぽいと触れられていた「残響ばよえ~ん」が確かに意外性の点では一番ではある。ただその意外性も色盲というミステリではわりと定番の真相であったため殆どわかってしまった。むしろ他の人も言っていたが真相が分かって主人公の中で記憶の解釈が変わる、という補完されるエピソードの一押しがなるほどーという感じでよい。言語をめぐる哲学っぽい話から推理につながるのも面白かった。

 

もうひとつ印象的だったのは最後「そしてまわりこまれなかった」で、主人公のゲーム仲間であった旧友から年賀状が送られてきた三日後にその彼の自殺を知り、はがきの真意を探る……というものである。推測を重ねる中でその旧友がもうすぐ発売されるドラクエの新作を待たずに死んだのはなぜかという問いが浮上する。結論として年賀状の真意は主人公に対して「ドラクエの新作が出るけど自分はそれを待つことができない」と伝えるものであった。新作のドラクエをプレイすると没頭し過ぎて死ぬという決意が薄まるから旧友は新作を待たずに死んだのだ、と主人公は結論付けて物語は終わる。自殺の動機は一切明かされることがなく、ただ死ぬ前の小さな逡巡がゲームにあったのだということだけが分かる。自殺の動機がミスリードになっているのはそうかもしれないけど、こういう感情の機微が明らかになるのは結構好きなのでよかったと思う。ドラクエやったことないのに(本文にも未プレイの人は読むなと書いてあるが)読んだのだけが玉に瑕かもしれない。

 

全体を通してゲームを解釈することが人の言葉や言動の解釈と一致するテーマが一貫している。確かにどのエンタメにもある本質の部分がゲームにもあるのだと分かったかもしれない。しかし私はそもそもゲームになじみがなさすぎるので、そういう本質の部分に感じ入る前に、単に蘊蓄を楽しむ小説としての側面が大きかったと思う。シューティングゲームは上級者ほどワンコインで長時間プレイしてお金を落とさなくなる、ゆえに難易度を上げる必要があった、とか当たり前なのかもしれないがゲーセンと縁もない自分には考えたことなかった話で新鮮だった。

 

あとはやたらメタっぽい発言があったり、やけに短い詩のような主人公のモノローグの青臭さとかラノベっぽい外連味がある。主人公と年が近いのでそういう将来への不安とかは共感できるわけで青春ミステリというのもちょっとわかる。同じ作者の長編をあと2冊持っているのでまた読みたい。