nikki_20230322「泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』」

 

 

『生者と死者』『煙の殺意』に続いて泡坂妻夫は3冊目だった。おそらくこれがわりと有名な気がする。亜愛一郎が行く先で様々な事件に遭遇する短編集。こういうシリーズには付き物だが色んな人の視点から彼の姿が描写されるので、素性の知れない感じがしてよかった。内容としてはハウダ二ットが主題となる作品が多いのも嬉しかった(「右腕山上空」「掌上の黄金仮面」「G線上の鼬」「ホロボの神」あたり)。しかし生真面目ではなく、道具立てには笑ってしまうようなユーモアがたくさんあって、その奇妙な状況で事件が起こるのもよかった。「右腕山上空」では菓子会社がヘビのお菓子のプロモーションとして気球を飛ばすし、「掌上の黄金仮面」では大仏の掌の上でビラを撒く人が射殺され、「G線上の鼬」では雪密室のような謎がイタチに着目すると解決し、「黒い霧」では黒と対比されるように商店街の人々がケーキや豆腐を顔に投げてぶつけ合う。

 

トリックそのものは流石奇術師という点と、人間の行動から奇妙な結果が出てくる点が特徴的だった。「煙の殺意」で感じたこの人の作風通りだと思う。「G線上の鼬」における選択の心理はまさにトランプにおけるフォースのそれだし、「掘り出された童話」の平仮名の分類なんかもトランプの数字を覚えるときのそれに似ていた。そうして「DL2号機事件」に象徴されるように、人間の心理をそのまま当てはめて事件が解決する。前々から聴いていたけど厳密なロジックというより、水平思考クイズみたい飛躍がある。実は『亜愛一郎の転倒』にある「球形の楽園」だけ読んだことがあったのだけど、あれもなかなかに水平思考クイズみたいな話だったと思う。変な状況で起こった事件に素性の知れない男が表れて、変な解決をしている話だった。面白かった。